新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

ますます、 高橋さんの言っている事が理解出来ない。
すると、 箱からチョコレートの1枚を取り出して包み紙をはがすと、 高橋さんがパクッと素早く口に入れた。
「うん。 大丈夫だ」
はぁ?
「あ、 あの、 大丈夫だって、 何が……ですか?」
もう、 訳がわからなくて、 思わず問い返してしまった。
すると、 もう1枚チョコレートを箱から取り出して包み紙をはがすと、 高橋さんは私の方を向いた。
「アーン!」
エッ……。
でも、 何故か無意識に高橋さんに言われるまま、 口を開けてしまっている自分がいて、 そのままその薄いチョコは私の口の中におさまってしまった。
「美味しい……」
何とも言えない、 ビターな味。 あまり甘くなくて、 美味しかった。
「だろ? 流石、 お前が選んだだけあるよな?」
「えっ?」
私が選んだだけあるって……どういう事?
「お前……覚えてないんだ」
その声……。
今の高橋さんの声は、 とても重く寂しそうで哀しい声が私の耳に刺さった。 その声は、 ミサさんとの現実に向き合って、 私に別れを告げに来た時の声同じに聞こえた。
「高橋さん?」
覚えてないって、 何?
「あのさ、 このチョコレートは、 あの日……お前が俺のマンションに来て、 誕生日プレゼントと一緒に紙袋に入っていた。 バレンタインデイのチョコレート。 ちょっと早いですけど一緒に……と、 メッセージに書いてあって……」
「あっ……」
そうだった。 そう言えば、 そんな事があった。 高橋さんの誕生日とバレンタインデイが近いからって、 去年も渡せなかったから今年こそ! と、 思っていて……でも渡せる機会を逸しそうで怖かったから、 誕生日プレゼントと一緒にあの紙袋の中にメッセージと共に入れたんだった。
その時のチョコレート。
高橋さんは、 まだ食べずにとってあったんだ。