傷痕に咲く 〜パティシエ総長と歪な少女〜


朝靄の中、隣を歩く竜司くんはやはりどこかぎこちない。

そして、それは私もだ。

私「も」ではないのかもしれない。

本当におかしくなったのは、私だけなのかもしれない。

おかしくなったのは私で、周りは変わっていないのに周りがおかしくなったと錯覚している。

ひゅっと息が詰まる。

竜司くんのあの複雑な表情は一体なんなのだろう。


「あ、猫。」


竜司くんが突然塀を指差した。

眩いほどに美しい白猫が、悠々と歩いていた。

私たちに気がつくと、しばらくこちらをじっと見て、やがて塀の向こう側に飛び降りた。


「猫っていいよね、身軽で気ままで。」


そう呟くと、わかる、と竜司くんが頷いた。


「凛ちゃんがもし猫になるとしたら、野良か飼い猫か、どっちがいい?」

「うーん…飼い猫に一票。」

「その心は?」

「だって食べ物に困らないもん。」

「そりゃそうか。」


大笑いするわけでもなく、沈黙を貫くわけでもなく、取り止めもない話をしながらゆっくりと学校へ向かう。

こんな日常を、どうしても苦しいと思ってしまう自分がいた。

幸せだ。泣きたくなるほどに幸せだ。充実している。

しかしその幸せを噛み締めれば噛み締めるほど、正体のわからない感情で胸が締め付けられた。


『好きだから』


その言葉の意図を理解できないまま、いや、理解しようとしないまま無駄に時が過ぎていく。