『凛ちゃん』
あの日の放課後、声をかけられた。
心臓が跳ねたけど、平静を装って微笑んだ。
『竜司くん、心配かけてごめんね。バイトも休んじゃってごめん。もう復帰できるよ。』
私の顔を見た竜司くんは一瞬泣き出しそうな顔をした…ように見えた。
しかし瞬きの後、彼はいつもの引き締まった表情に戻った。
『凛ちゃん、俺がこの間言ったこと…』
ぞわっと全身に鳥肌が立った。
私はあの出来事に完全に蓋をすることを決め込んだのだ。
母親と会ったその日の夜、ぷつりと糸が切れたように何もかもがどうでもよくなり、不思議と元気が湧いてきた。
全てをリセットできる気がした。
だから私は全てを忘れたことにして、学校に行った。
何もなかった。思い悩んだことも、全てが無かったことにする。
だから、もう何も思い出したくなかったのだ。
『ごめん竜司くん、もうその話はしないで。』
『っ…』
息を呑む竜司くんに弾けるような笑顔で微笑みかける。
ほら、私はこんなに元気だから、何も気にかける必要はない。
『全て、無かったことにして。』
『それ…は…』
竜司くんが珍しく焦るように言葉に詰まった。
『もういいの。竜司くんは何も悪くない。全て私の責任だから。』
突き放すようにそう伝えると、彼は今までに見たこともないような複雑な表情を浮かべた。
一言では表せないような、いろいろな感情を凝縮した、不思議な表情だった。
その表情を見ると、私の胸はズキズキと痛んだ。
