傷痕に咲く 〜パティシエ総長と歪な少女〜


始めて刃を自分に向けたのは小学五年生の頃だった。

握りしめたカッターがどうしょうもなく魅力的に見えて、そのまますーっと腕に滑らせた。

切れ味が悪くて白い跡がついただけで終わった。

今度はもう少し強く刃を当てた。

ぐいっと引くと、皮膚が裂けた。

心臓が痛いほどに跳ねた。

一瞬の後、ドバっと鮮血が溢れ出た。

想定以上に深く切ってしまい、焦った私はハンカチで傷口を押さえつけた。

血は思ったよりもすんなりと止まった。

結局血が濡らしたのはハンカチの四分の一ほどで、見た目よりも出血量は少なかったのだ。

ヒリヒリと痛む肌に、久しぶりの気分の高揚を感じた。

理由は分からない。

切れば切るほど心は軽くなる。

発散できない感情が全て血と共に身体から飛び出す感覚がした。

私はリストカットの虜になってしまった。

しかし人間とは慣れる生き物である。

小さな傷では満足できなくなるのもすぐだった。

満足できないのなら深く、たくさん切るまでだ。

最初は手首だけだった傷は腕を遡上し、二の腕から肩、果ては首元まで広がった。

小学校の卒業式を迎える頃には、取り返しのつかないほどに左腕はボロボロになってしまっていた。


そして事件は春休みに起きた。