傷痕に咲く 〜パティシエ総長と歪な少女〜


裏切られた、と思った。

抜け駆けされた、と泣いた。

彼女が羨ましかった。

傷を舐め合う人がいなくなった。

苦しさを共有してくれる人がいなくなった。

また真っ暗だ。頑張り方が分からなくなった。

憎らしかった。

彼女は親に直接的な攻撃をされていないじゃないか。

顔がパンパンに腫れるほど殴られ続けたこともないし、水に顔をつけられたこともないし、髪を変に切られたこともない。

酷い言葉をかけられたこともなければ、個性を捻じ曲げられたこともない。

ただ放っておかれただけなのに。

「甘え」だと思った。

憎くて憎くて仕方がなかった。

しかしそれも数ヶ月の間だけだった。

子供は残酷だ。

暫く会っていないと、簡単にその人を忘れる。

あれだけ憎らしかったあの子も、いつしか他人となり、私は孤独に戦う道を選んだ。

彼女に続くという発想は無かった。

そんなことを考えられるほど私は余裕がなかったし、事の深刻さが分かっていなかった。



やがて季節は巡り、小学四年生になった。

その頃「体罰アンケート」というものが始まり、生徒たちは全員教師からの体罰を受けていないか調べられた。

その時私は少しだけ心の内を吐露した。

『先生から殴られたことはないけれど、親にはいつも殴られている。』

その言葉を聞いた瞬間の担任の若い女性教師の顔は忘れられない。