お隣さんの家に泥棒が入ったらしい。
ちょっと家を出た隙に入られたそうだ。
こんな平凡な田舎町ではちょっとした事件。
しかも、どうやら私はその空き巣を見ていたらしい。
「ええ、そうなんです。
そこの2階の窓、緑のカーテンが揺れるのが見えて……。
もちろん奥さんだと思って、不信に思うことはなかったんですけれど」
初めて警察に聴取されたわ。
今も興奮でドキドキしてる……。
警官がお隣の奥さんに確認している。
「それで盗られた物の確認なんですが……」
「だから、高級マグロ! 大間の本マグロの大トロよ!
100g7600円もする高級品よ!」
「その他には?」
「大トロだけよ! 大損害だわ!」
……え?
あんなに大騒ぎして、盗られたのってマグロだけなの……?
ぽかんとして見ていると近所で一人で暮らしているご婦人、麻さんが通りかかった。
「お隣のお宅どうなさったの?」
「あの、泥棒が入ったみたいで……。
盗られた物はマグロだけだったらしいんですけど……。
私もたまたま窓のカーテンが揺れるのを目撃していて……」
麻さんはぐるりと視線を巡らすと、あらあらと笑った。
「犯人は今頃夢の中ね」
「……えっ? どういう事ですか?」
麻さんが指さした先。
太った猫が緑のカーテンの窓際で寝ている。
あれはお隣の飼い猫プリンだ。
……あっ……?
麻さんがわかったでしょ? というように微笑んだ。
そうか……。
マグロを盗ったのは、プリンだったんだ……。
よく考えたら、私がお隣の家の窓を見たのだって、プリンがたまに窓辺にいるから、それで見る癖がたまたまついていたんだった……。
「私ったらどうしましょう……。カーテンが揺れたなんて証言してしまって。警察はきっと、いもしない犯人を探す羽目になってしまいます……」
「そうねぇ……。お隣さんもここまでの大騒ぎにしてしまっては、今さら家の猫が犯人でしたなんて言えなくなってしまうわねぇ……。助けに行ってあげましょうか」
「そうですね……!」
麻さんの単純明快な推理で犯人が判明し、警察は引き上げていった。
お隣さんも勘違いして大騒ぎしてしまったことに平謝り。
プリンはというと……。
しばらくの間、安い餌しかもらえなくなったそうだ。