「先輩、今週土曜って空いてますか?」
「なんで?」
「えっと、その、デートしたくないですか。」
「ぷっ、何それ」
先輩に笑われた。
「……いいよ。行こ?」
「水族館、とか」
「水族館かぁ……懐かしいね。」
「じゃあ、待ち合わせを決め……」
「の前に、」
「連絡先、交換。ね?」
僕の2つしかなかった連絡先が3つに増えた。
デート当日。
「先輩、今どこですか。」
「和泉駅の中」
「何口ですか。」
「東口」
「迎えに行きます。」
「ありがとう」
「着いたね。」
「はい。」
「どのエリア、行きたいですか。」
「どこでも。」
「じゃあ、順に回りましょう。」
「ねぇ、ちーくん見て。ペンギン。」
「ケープペンギンだって。可愛い。」
「……可愛いです。」
主語は言わなかった。
それから、熱帯魚だの、深海魚だの、イルカショーだのと、先輩に引っ張られながら見て回った。
家族じゃない誰かと出かけるなんて、久しぶりだった。
「楽しかった!」
「良かったです。」
「今度は、私から誘うね。」
「……何をですか。」
言い方が危なかった。
「次は、私の家に来ること。」
「わかりました。」
やっぱり、ノーとは言えなくなっていた。