部活終わり、ガヤガヤと騒がしい昇降口を通り抜け、そのまま図書室へと向かう。

……独りになりたかった。


「よし、誰もいない。」


そうつぶやいた時、


「見ない顔だね。」


と誰かに声をかけられた。


「うわっ!?」


びっくりして振り向くと、そこにはロングヘアの女子生徒が立っていた。

……ネクタイの色が青い。先輩なのか。


「あはは、そんなに驚かなくても。」


「後ろからいきなり声をかけてくるのは失礼なんじゃないですか。」


僕は反論した。


「ごめん、ごめん。ほんとに見ない顔だったから、気になっちゃって。」


「……そうですか。」


「君は、なんでここに来たの?」


「え?」


「私いつもここにいるけど、君の顔見たことないもん」


……そういうものだろうか。

顔が、顔が、って言うけど、この人は顔に何か興味でもあるんだろうか。


「たまに、来てますよ。」


……嘘だ。

図書室に来るのは今日が初めてだった。


「ふーん。」


……なんだよそれ。

そっちから聞いてきたくせに反応が薄い。


「本を借りるわけでもないのに?」


「勉強、しに来てるんです。」


また、嘘をついた。

破れた教科書で勉強など、できるわけがない。


「……そう。じゃあ勉強したら。」


「貴方が僕を呼び止めたんでしょう!?」


「うそうそ、からかっただけだよ。」


「……じゃあ、そういう貴方はここで何してるんですか。」


「図書委員」


「本を読んでないのに?」


「仕事中に読書する委員がどこにいるの?」


「日本中探したらいるかもしれませんよ。」


「君ねぇ……」


「そういえば、」


と、女子生徒が何か言いかけるのを遮って僕は言う。


「そういえば、貴方の名前を知らないです。」


「私も。」


「自己紹介しますか。」


と、遅すぎるスタートを切った。



「じゃあまず、新顔の君から。」


と、指名された。

ここにはたった2人しかいないのに。


「間宮」


「間宮 智紘、です。貴方は、」


「私は、翠月 璃玖。」


すいげつ、りく。

心の中で復唱する。

……綺麗な名前だな、と思った。


「じゃあ、学年。私は3年。」


「2年です」


「おぉ、後輩くんか」


“後輩くん”って。

もっといい呼び方あるだろ、と思うが口にはしない。


「んー。じゃあ、君のことは“ちーくん”って呼ばせてもらう。」


「……はい?」


いやいやいや。

家族でもない。

親戚でもない。

ましてや友達というわけでもない先輩に、どうして僕が“ちーくん”なんて変なあだ名をつけられなきゃならないのか。

新手のイジりか。


「なに、嫌だった?」


ここで「はい。嫌です。」と言えたら、どんなによかっただろう。


「別に……」


「うん?」


「別に、嫌じゃないです。」


……言ってしまった。



これが、僕と璃玖先輩の最初の出会いである。