涙の色


 サーヤ姫のお部屋のドアが開いて、マスターに手招きされた。

 まだちょっとだけほっぺたに残っていた涙を手でぬぐいながら、入室する。

 うっかり右手でやってしまい、健斗君は「しょっぱい......」とつぶやいた。

 人面瘡にも味覚ってあるんだな、なんて、変に冷静なわたし。

 わたしの決意は固まってる。

 わたしのままで、元の世界へ戻るために、この移植を成功させなくちゃ。

 でもサーヤ姫としては、元気なわたしの体をそっくりもらった方がいいのかも知れない。

 もし......『やっぱり入れ替わりたい』ってサーヤ姫にお願いされたら、わたしはどうしたらいいんだろう。

 あのサーヤ姫の顔を見て、きっぱり断ることなんてできそうにない。

 どうしよう......。

 わたしはおそるおそる、サーヤ姫の枕元へ近づいた。


 サーヤ姫も、泣いていたみたいに目の周りが赤かった。

 まさか『やっぱり、後継ぎが産めない自分とは別れてください』なんて、マスターに別れ話を持ちかけた、とか?