「合わない体に乗り移ろうとすれば、今の健斗のようになってしまったり、失敗してそのまま死んでしまうこともある。だが、同じ体だったら......」
「つまり、沙也ちゃんの体をサーヤ姫のために明け渡せってことですよね? それじゃあ、元の体の持ち主である沙也ちゃんはどうなるんですか?」
マスターは、小さく「静かに」と健斗君を制してから、ゆっくりとほほえんでわたしに向き直った。
「沙也、今までの人生、幸せだったと思えるか?」
その金と白金の目でじっと見つめられたら、多分全部お見通し、だよね。マスターも健斗君と同じように、わたしの今までのことがわかってしまったんだ、きっと。
わたしは、幸せだったと胸を張れない人生を過ごしてきた。
力なく、首を横に振る。
「人生を、もう一度やり直したいと思わないか? 今度は幸せな家庭で、何不自由なく育つことができる。出産前の赤子に戻って、幸せな子どもとして、生まれることができる。悪い話ではないと思うのだが」
わたしの目をじっと見ながら、マスターが優しく問いかけてきた。そしてようやく、わたしがここへ連れて来られた意味が、はっきりした。
「......わたしの体をサーヤ姫へ明け渡す代わりに、わたしは幸せな赤ちゃんになって、人生をやり直す、と」
「そうだ。双方にとって、良い結果が生み出されると思うのだが」


