「なぁ......サーヤ姫の病気って何だろう。沙也ちゃん本人を連れて来なきゃ治せないっていうところが、何となくいやな予感、なんだよな」
「どういうこと?」
「まだ憶測だからはっきり言えない。ただ、無理なことを押し付けられそうなら、こっそり元の世界に戻るぞ」
「わたしたちだけで帰れるの?」
「ああ、いざというときのために細工しといたから。明日の夜中の十二時を過ぎてもオレが起きて来ない場合は、そっと起こしてくれって父に頼んである。この時間までには起こしてもらわないと、オレの金縛りタイムが終わって戻りにくくなるからさ」
「なるほど。びっくりして目を覚ましたら危険だって言ってたもんね」
「そう。できれば自分で自然に目覚めるのが一番だけどね。だから、オレ達がここにいられるのはあとどのくらい?」
「今、三時過ぎだからあと二十時間ちょっと?」
「そういうこと。ただ、こっちの世界で計算すると、五倍の百時間超ってところだ。実はこれも予想できていたんだ。金縛り中は、実際よりはるかにゆっくり時間が流れているような気がしていたからさ。......いいか沙也ちゃん、もしもいやなことをお願いされたら、きっぱり断ってもいい。そして、時間が来るまでとにかく逃げる。タイムリミットは十二時。オレが強制的に幽体離脱を終える時だけ、君も元の世界に戻れる」
リストバンドの下から、健斗君が真剣に語りかける言葉にいちいちおどろいてしまうわたし。
そこまで考えて、こっちに来ていたとは。
わたしは、サーヤ姫の命を救うためにここへ来た。
サーヤ姫がなぜ危険な状態なのかも知らないまま。
『わたしの体ごと』こっちへ来なきゃダメだって、あの王子様達は言ってたけど、それってまさか......?
やっと、健斗君が言うところの『いやなこと』が想像できたわたしは、お湯に浸かりながら、自分の体を抱きしめた。


