マスターの願い
マスターが、私だけではなく健斗君の名前も呼んだことにびっくりした。
「え? オレのことも知ってるの?」
健斗君がおどろいている。
マスターはわたしの右手をそっと包み込むように持ち上げて、ちゃんと『二人』に話してくれた。
「戻ってきてすぐ、アンドリュー王子が伝書鳩を飛ばしてくれたので、だいたい理解している。その伝書鳩に、サーヤはまだ生きているから急いで沙也を連れてくるようにと、手紙を持たせたのだ」
......この世界は、まだ電話はおろか、電気すらないということはわかっていた。だから伝書鳩が大活躍なんだ。
そして、お医者様より呪術に頼ったりするのかな?
少しずつ、わたしもこの世界のことを理解していた。
あ、マスターはサーヤ姫のことを呼び捨てにしてる。
師匠と弟子だから、当然なんだ、きっと。
「それで、サーヤ姫は今、どんな状態なんですか? わたしは一体、何をすればいいんですか?」
聞きたいことはいっぱいあったけど、とりあえず大事なのはこの二つ。
せっかくここまで来たのに、手遅れになったらと思うと、いてもたってもいられない!
「サーヤは......辛い治療の甲斐なく命が消えようとしている。このままでは確実に、あとひと月以内に死ぬだろう。もう、限界まで治療した。残された希望は、異世界でサーヤと同じ体を持つ沙也だけだった」
マスターは、わたしの体を爪先から頭のてっぺんまでじっと見た。
わたしとそっくりなサーヤ姫。
今は病気だから、きっと変わっているだろうけど、元気な頃のサーヤ姫を思い出しているのかも。


