シャーマンの館
馬車は先ほどからずっと、森の奥を走っている。 健斗君はどうやら寝ているらしい。目を閉じて一言もしゃべらずにいるから。
わたしも一瞬、うとうとしていたみたいだったけれど、ゆれが大きくなって目が覚めた。
それに気づいたのか、ずっと静かだったアンドリュー王子が、ようやく口を開いた。
「サーヤ姫は、我が国一の偉大なシャーマンと共に、修行に励んでいた。四年間、ずっと修行の毎日で、その間世間からは隔離されていたのだ。やっとサーヤ姫を見ることができた時、我は恋におちた。五年ぶりに見たサーヤ姫は、輝くばかりの美しさで、神々しい舞をひろうした。妹のような存在だったはずなのに、もう、妹ではなくなっていた。是非、我が妻に迎えたいと、強く願ったのだ」
「そう、だったんだ。ところで、この国では何歳から結婚できるの?」
「十六からだ。だが、普通、王族や貴族は、十五になる前に婚約披露を行い、一年ほど時間をかけて、婚礼の準備を行う」
「だとしたら、アンドリュー王子もシン王子も、そろそろお嫁さんを決めなきゃならない時期、だよね?」
「そうだ」
わたしの顔を見ないで話しているのは、多分わたしを見ていると辛いからだと思った。
愛するサーヤ姫とわたしは別の人間。
見た目はそっくりでも、わたしはこんなにがさつだし、大食いだし、可愛くない性格だって自覚している。
わたしに向かって、サーヤ姫のことを話すのって、きっとフクザツなんだと思う。
人面瘡時代は、わたしの肩にくっついていた二人。
わたしの顔を見ながら話すことなんて、鏡を見た時だけだったもの。
わたしが服を着てたら、目かくし状態だったはずだし。
「そんなにサーヤ姫って、ステキな女の子だったんだ......」
「そうだ。我がほれるほどに、な」
ほんの一瞬、わたしの顔を見てそう言ったアンドリュー王子が、あまりにも切なげで。
美形が影のある表情を作ったら、最強だと思った。ちょっと、観賞用にカメラに収めたいと思っちゃったけど、スマホは元の世界に置いたままだったっけ。


