わたしは今、子どもの頃に憧れた世界の住人になっている。
お城の中の、女の子らしい素敵なお部屋で、優雅な朝食タイム。
シンデレラみたいな水色のドレスを着て、向かいには美形の王子様。
......ただ一つ、夢とは違うのはっ!
「沙也ちゃん、ねえ、オレにもそのパン、ちょっと味見させてよ」
「ダメっ! 手首に食べ物なんて入れたら、中でくさるかも知れないじゃない!」
「ええええー!、ケチ! オレだってこっちの世界のもの、食べてみたい!」
「我らは紗也の肩にいた時、そんな下品なことは一度たりとも考えなかったぞ。健斗も我慢しろ!」
そう、手首の人面瘡も交えた朝食タイムだっていうこと!
「それで質問なんだけどさ、王子様達はどうやってわたしから離れたの?」
「よくわからない。ただ、そちらの世界へ行く時、シン王子と共に居た場所へ戻っていた」
「そうか。じゃあオレ達が帰る時も、元のオレの家へ戻れるんだな?」
「おそらく、そうだろう」
ちょっとほっとした。これで無事に戻れたら、わたしは重要参考人にならずに済みそうだ。
「そうそう、こっちの世界に来る直前、すごく怖くなったんだけど、あれは何?」
今度は手首にいる健斗君に質問してみると、彼は一気にシリアスな表情となった。
人面瘡にも豊かな表情の変化っていうのがあるらしい。彼には悪いけれどやっぱり笑える。
「言っただろ、オレんちは神社だからこういうゴタゴタに慣れているって。つまり、お祓いしてその人間から離れた悪霊の中には、居場所がなくなってオレたち家族やオレんちに出入りしている人間を狙っているやつらもいるんだってこと」
「えっ? ということは、あのときすぐそばにいたのはもしかして!」
わたしの言葉のあとを、健斗君が継いでくれた。
「たぶん、悪霊だよ。それも結構強烈な恨みを持ってるやつね」


