「それってもしかして、体から魂だけが抜けちゃう、とかいう?」
そんなの、死んだ人が三途の川を渡るときだけだと思ってた。
生身の人間がやるなんてうそでしょ?
「そういうこと。あんまりあれ得意じゃないんだけどさ。可愛い沙也ちゃんのためにがんばるよ。もし無事に戻れなかったら、オレ、死ぬから。それでさっき、色々準備したんだ」
ほ、本気なの?
「何でコンセントとか電池を抜くのが準備なの?」
「幽体離脱中に、肉体側が音や振動でおどろくと、とんでもない事が起こるから。大抵の場合は、魂が強制的に体へ戻されちゃうんだけど、体に与えられた衝撃が大きいと、体と魂が切り離されて戻れなくなることもあるんだ。そうなると、オレの体は死んでしまって、沙也ちゃんは異世界から出られなくなる。ちょっとそれを想像してごらん」
......わたしは得体の知れない世界でひとりぼっち。
こっちの世界では、鍵がかかったこの離れに、健斗君が一人、布団に入ったまま死んでいる。
布団は使った形跡があり、荷物もそのまま残っているのに、持ち主のわたしはいない。
......間違いなく、相馬沙也は重要参考人になるじゃないのっ!


