「さて、問題はどうやってそっちの世界に行って、どうやって帰ってくるか、だな。行きは王子様達が連れてってくれても、帰りはオレと沙也ちゃんだけ。これ、よっぽどがんばらないと異世界じゃなくあの世に行っちゃうぞ」

「あの世、かあ......。苦しまないで行けるならいいけど」


 一瞬、考えた。

 生きていてもあんまりいいことなかったし、わたしが死んだとしても、誰も本気で悲しんではくれないんだろうなって。

 そんなことをぼんやり想像していたら、いきなり大きな声で健斗君が叫んだ。

「だ~めっ! そんな暗いことを考えていたら、たちの悪い霊に引っ張られちゃうぞ。五体満足、人面瘡なしで帰ってきて、オレの願い事を叶えてくれなくちゃ」

 軽くデコピンされて、笑われた。でも、健斗君の目は、笑っていなかった。わたしの考えてたこと、お見通しだったりして......。


「沙也ちゃん、生きてたら楽しいことだっていっぱいあるさ。まだ高校生だろ」

 自分だって高校生なのに、なぜか健斗君の口調が大人びている、というか、ちょっぴりオジサンっぽいと思ってしまった。でも、失礼なので、口には出さないでおこうっと。

 すると、反応が薄いと思われたのか、ますますヒートアップした健斗君が語り続けた。

「人生これから! 楽しく過ごすために、まずはこの問題を解決しなきゃな。今までだって君は、いろんな困難に負けずにたくましく生きてきた。......違うか?」


 今、私が抱えている問題。

 どうしてこの人は解っちゃうの? わたしは何も言ってないのに。親友の美奈にだって、深い悩みは打ち明けていない。だって、友達に相談したところで解決なんてできないから。同情されるだけになってしまって、よけいに自分がみじめになるから。

 でも、きっと彼が言う『見える』っていうのは、本当なんだなって素直に信じられた。

 人面瘡がくっついた、不幸なわたしを心の底から心配している、そんな眼だった。