わたしの知らない世界


「また会えてうれしいよ、沙也(さや)ちゃん!」

「わたしはあんまりうれしくないけど」

 じろりとにらんだ先には、ジャラ男こと真崎健斗|《まさきけんと》君がにこにこしながら座っている。

 髪をかきあげてから、わたしのスマホをカバンから取り出した。

 スマホを返してもらいたくて待っているだけで、いやでも目に入る、ジャラ男の姿。

 薄いブルーのワイシャツに、黒とエンジのストライプのネクタイ。紺色のいかにも高級そうなジャケットのえりには、きらりと輝くペン先型の校章がつけられている。昨日の電話で『隆國院学園|《りゅうこくいんがくえん》』って言っていたけれど、ここって私立の中高一貫で超進学校だったはず。こんなすごい学校、きっと学費も偏差値も相当高いんだろうな。

 なのに、その品位が台無しになっちゃうようなじゃらじゃらアクセサリーはどうなの?

 全然、わたしのタイプじゃない!

 一緒に並んでいるのだってやめてほしいのに、こんな男子と一緒にドーナツ屋さんなんて最悪!

 でも、スマホは返して欲しいし、それに......。

「はい、沙也ちゃんのスマホ。大丈夫、最低限しか見てないから」

「最低限って、どこまで見たの?」

「マジで最低限だってば。パスワードわかんないし着信あった時に見ただけ……」

「関係ないでしょ! 最低! わたしもう帰るっ!」

 席を立とうとしたわたしに、またジャラ男は髪をかきあげながら言った。

「あれ? オレに何か聞きたいんじゃないの? ......その、肩に取りついてるもののこととかさ」