「うん。わたし、なでなでされてほめてもらいたかったんだよね」
「人間ってさ、誰かにほめてもらったら、どんなに辛くてもがんばろうっていう気持ちになれるんだよな。サーヤ姫があんなにポジティブなのは、ポジティブな言葉をいっぱい浴びて育ったからだと思うんだ。沙也ちゃんが辛かったのは、ポジティブな言葉が極端に少ない環境で育ったからじゃないか?」
なでなでしながら、健斗君の話は続く。
「オレさ、沙也ちゃんのこと、前から知ってたんだ。沙也ちゃんが今年の夏にうちの神社のお祭りのバイトに来てた時、オレも見ていたんだ。オレはずっと裏方か、獅子舞の頭の方ばかりやってたんだけどさ」
「そうだったの? 全然知らなかったよ」
「他の女の子たちが暑くてダルくてサボってるとき、沙也ちゃんだけが一生懸命、境内の掃除をしてくれてた。オレの獅子舞に頭かじられて泣いてる子どもの事、あやしてくれたり。ああ、裏表のない、いい子だなって思ったんだ。今考えると、普段あまりにもほめられてないから、裏表なんてもともとなかったんだな。誰かが見ている、いないに関わらず、同じ態度で働いてただろ?」
そこまで見ていたんだ......。初めて聞く話にびっくりしつつ、わたしはうなずいた。


