α様は毒甘な恋がしたい


「この前の土曜日は、慌ただしいサヨナラになってしまってごめんね」


 真横から聞こえてきた、耳触りのいい誠実な声。

 奏でたのは、八神(やがみ)戒璃(かいり)先輩だ。


 紫がかったストレートの髪がサラサラで。

 緩んだ目元が優しくて。

 実物もテレビの中でも、気品ある王子様にしか見えないな。

 気を抜くと、私の心が簡単に奪われそうになってしまう。


「八神先輩、土曜日は病院まで送ってくれてありがとうございました」

「気軽に戒璃って呼んでよ」

「……えっ、」

「それと、俺に敬語なんか使わないで欲しいな」


 ……ん、無茶ぶり。

 ……そういうわけには。


「八神先輩は、一つ上の先輩ですし。学園の生徒会長ですし……」

 熱狂的なファンが多いバンドマンですし……

 適度な距離感は、大事というか……


 焦りながら両手を振る私を見て

「小動物みたい」

八神先輩はこぶしを口元に添え、クスクス笑い。