わたしの目線の先にいるのは、もちろん慧くん。


 慧くんは白シャツに、黒のソムリエエプロンを身につけていて。


 彼は今、お客様のオーダーをとっている。


 初めて見る慧くんの働いている姿はすごくかっこよくて、わたしは無意識に彼を目で追ってしまう。


 今日、慧くんは13時までバイトで。


 そのあと、わたしとデートする予定になっている。


 だけど、慧くんが働いているところを以前から一度見てみたかったのと、何より……わたしが慧くんに少しでも早く会いたくて。


 約束の時刻の1時間も前に、こうしてバイト先にお邪魔してしまったというわけだ。


「あの、すいません」


 オーダーをとり終えた慧くんは、またすぐに別の女性客に声をかけられ、足を止める。


 どうやら女性のお客さんはみんな、慧くんに注文をとって欲しいらしい。


 みんな、ちらちらと慧くんのほうを見ている。


 そりゃあ、あれだけかっこいい店員さんがいたら……ねぇ。そう思っちゃうよね。


 ああ、店長さんももちろん良いんだけど。どうせならわたしも、慧くんに注文を聞いてもらいたかったなぁ。


「ああ、ほんとかっこいいよぉ」


 わたしが両目を手で覆っていると。


「……誰がかっこいいって?」