その便箋に記された筆跡は、俺が世界で一番愛しい人のものだった。


【今日は、学校の体育の授業で50m走があり、慧くんがクラスでトップのタイムでした。一生懸命走ってる姿は、誰よりもかっこよかったです。】


【今日、英語が分からないと言っているクラスメイトに、慧くんは嫌な顔ひとつせず、その子が理解するまで丁寧に教えてあげていました。
彼は、わたしにもいつも勉強を教えてくれて。そんな優しい慧くんのことが、わたしは本当に好きです。】


「何だこれ。ここに書いてあるの、俺のことばっかりじゃないか」

「依茉さんがここ最近、毎日のように手紙を家に送ってくるのよ。ほんと、迷惑だわ」


 そういえば依茉が少し前に、学校で俺に話していた。


 ──『ねぇ、慧くん。わたしの大切な人への手紙に、慧くんのことを書いても良い?』

『え? 俺のことを?』

『うん。ちょっと訳があって、わたしはその人と会うことができないから。せめて、手紙で慧くんのことを話せたらなと思って。ほら、慧くんはわたしの大切な彼氏だから』

『うん。いいよ』


 あのときは特に疑いもせず、依茉の言う大切な人は彼女の親戚や友達のことかな? くらいに思って了承したけど……。


 まさか、その相手が俺の親だったなんて。