「うん。どうしたの?」

『なんか、依茉の声が聞きたくなって』


 慧くんの嬉しい言葉に、沈んでいた気持ちが浮上する。


『依茉、いま忙しい? もしかして、夕飯の支度中だった?』

「ううん。大丈夫だよ」


 慧くんとハンズフリーで通話しながら、わたしは先ほど怪我をした指を流し台で洗い流す。


『ちなみに、今日の夕飯は何なの?』

「今日はね、オムライス」

『そういえば依茉、オムライス好きだって言ってたな』


 慧くん、ちゃんと覚えててくれたんだ。


『いいなぁー。俺も、依茉の作ったオムライス食べたい。ああ、毎日依茉の手料理が食べられるなんて、怜央が羨ましい』

「今度、慧くんにも作ってあげるよ」

『えっ、まじ?! やったね』


 わたしの言葉ひとつで喜んでくれる慧くんに、自然と頬がゆるむ。


『さっき、一瞬だけ怜央になりたいって思ったんだけど。やっぱ俺、怜央じゃなくて良かったわ』

「……え? なんで?」

『だって、兄ちゃんだったら……依茉と結婚できないだろ?』