「でもさぁ、あの一堂グループの御曹司と1ヶ月だけでも付き合えるって良いよねぇ」

「ほんと。あたしも先輩と付き合いたいわ」


 杏奈と真織が、2人で盛り上がっている。


「何言ってるの!? 杏奈、真織。2人ともあんな人とは付き合ったらダメだよ、絶対にダメ!」


 わたしは、一堂先輩のことを睨みつける。


「何なの、失恋ちゃん。俺のこと、いきなり睨みつけてきて。怖いなぁ〜」


 一堂先輩が、大袈裟に身震いしてみせる。


「あの、先輩。わたしの友達には、絶対に手を出さないでくださいね?」

「失恋ちゃん、心配ご無用だよ。俺、年下にはキョーミないから」


 もう、その『失恋ちゃん』って呼び方、ほんとにやめて欲しい。


「あと、わたしの名前『失恋ちゃん』じゃないので!」

「ああ、キミの名前は確か……西森依茉ちゃんだったよね」


 えっ、先輩。どうしてわたしの名前を……。


 下の名前は、さっき杏奈たちが呼んでいたからそれを聞いていたとしても。

 わたし、先輩に苗字って名乗っていたっけ?


「それじゃあこれからは、キミのこともちゃんと名前で呼ぶよ。クラスメイトとして、これからよろしくね? 依茉ちゃん」


 仲良くもないのに、いきなり下の名前で呼ぶなんて。わたし、こういう軽い人って苦手だ……。


 同じクラスだけど、一堂先輩とはなるべく関わらないようにしよう。


 こうして、わたしの高校生活は幕を開けたのだった。