「え、依茉!?」


 一堂くんは目を大きく見開き、わたしがキスしたほうの頬を手でおさえている。


「えっと。これはお礼のキスというか、何というか……。きょっ、今日だけの特別だから」


『お礼のキス』って。なに一堂くんみたいなことを言ってるの? って感じだけど。


「ちょっと、依茉。こんな不意打ちって……やばいんだけど! ねぇ、おかわりは?」

「そんなものは、ありません」


 頬がかあっと熱くなるのを感じたわたしは、早足で山登りを再開する。


 頬だけど。まさか、自分から一堂くんにキスをする日が来るなんて……。


 つい、衝動的になってしまった。ああ、自分で自分がちょっと怖い。


「ちょっと、依茉。早足で歩くと危ないよ。もっとゆっくり……!」


 一堂くんの声は全く耳に入らず、しばらくわたしの頬の熱が冷めることはなかった。


 そのあとは一堂くんとふたりで無事に山頂に到着して、班のみんなとも合流して。


 当然わたしは、先生に注意されてしまったけど。


 高校最初の遠足は、色々な意味で忘れられないものとなった──。