『好き』だなんて。この人は、またそういうことを軽々と言う。

 
「わたしは……好きじゃない」


 一堂くんがあまりにもじっと見つめてくるものだから、わたしは彼から視線をそらした。


「えー? そこは普通『わたしも好き』って言うとこでしょ?」


 一堂くんが、クスクスと笑う。


「だって、一堂くんの『好き』は本当かどうか分からないし」


 そもそも一堂くんは、まだ熱があるんだから。

 熱のせいで頭がボーッとして、そういうことを言ってる可能性だってある。


「ひどいなぁ。昨日、本気出すって言ったでしょ? これからこういうことは、依茉にだけしか言わないよ」


 わたしにだけ……?


「ほんと?」

「うん。俺、これから頑張るからさ。依茉も、早く俺のこと好きになって」


 わたしの背中に一堂くんの腕が回され、彼のほうへときつく抱き寄せられる。


「ああ。こうして依茉を抱きしめていると、すごく安心する……」


 力いっぱい一堂くんにギュッとされて、少し苦しい。


 わたしは、一堂くんの抱き枕じゃないのに……!