俺がいくらシュートを決めても、どれだけ目立っても、依茉の視線の先にいるのはいつだって小林だ。
「ちっ」
無意識に舌打ちをし、小林のことを睨みつける俺。
「なっ、なんですか、一堂先輩。俺、もしかして先輩に何かしましたか?」
「別に……」
小林は何も悪くないけど、なぜか無性に腹が立った。
* * *
怜央の妹とはいえ、学年の違う依茉とは話す機会もないまま、それから1ヶ月半ほどが経った。
昼休み。学校の廊下を歩いていると、開いた窓からは金木犀の甘い香りが風に乗って運ばれてくる。
……あ。依茉のヤツ、今日も水やりしてる。
最近昼休みになると、廊下の窓から中庭を見るのが俺の日課となっていた。
そのワケは、依茉が毎日のように中庭の花壇の水やりをしているからだ。
花壇の水やりなんて、学校の用務員さんがしてくれるのに。
怜央によると、依茉は花が好きらしく、自分から希望して水やりをしているらしい。
「いくら花が好きだからって。毎日見返りも求めずに水やりして。偉いよな、依茉ちゃん」
しかも花を見つめる優しい表情が、これまた可愛いんだよな。
「そうだろ? 俺の妹は、ほんといい子なんだよ」
「わっ!?」
独り言にまさかの返事が来て、俺は肩がビクッと跳ねる。



