あの日を境に、俺は依茉のことが気になるようになった。
彼女が “ 怜央の妹 ” っていうのもあるけど、多分それだけじゃない。
長い夏休みが明け、残暑の厳しい9月のある日。
あ、また見に来てる。
俺はバスケ部に所属しており、放課後いつものように体育館で練習していると、ギャラリーの中に依茉の姿を見つけた。
「きゃーっ! 一堂くーん」
「慧くん、頑張ってぇ」
自分のことを応援してくれる女子たちよりも、つい依茉のことばかりチラチラと見てしまう俺。
あの一件があるまでは、全然依茉のことなんか意識していなかったのに。
「慧っ!」
「おう」
同じバスケ部の怜央からパスを受けると、俺はドリブルをしてシュートする。
俺が放ったボールは、リングにかすることなくゴールに吸い込まれていった。
「きゃーっ!」
それを見たファンの女子たちの声援は、より一層大きくなる。
今のシュート、依茉は見てたかな?
俺が依茉のほうに目をやると、依茉はこちらのことなんて1ミリも見てなどいなかった。
最初は、兄である怜央の部活の応援に来ているものだとばかり思っていたが。
……またアイツかよ。
依茉がじっと見つめていたのは俺でも怜央でもなく、バスケ部の後輩・小林辰樹だった。



