君は今も元気ですか?
 それとももう居ないのでしょうか?
 君と会えなくなってから38年が経ちました。
 ぼくらはあの日、同じ施設で暮らしていたよね。
君は精神障害児として、ぼくは視力障碍児として。

 一緒に遊んだことは無かった。
勉強したことも、ご飯を食べたことも。
 何を考えているのか分からない。
 どんな夢を見ているのかも分からない。
 何を話しているのかも分からなかった。

 誰からも注目されること無く、振り返られることも無かった君。
 でもぼくの心には鮮やかに君が生きている。

 奇声を上げるたび、体を動かすたびに職員には怒られ、先輩たちには叩かれていたよね。
どんなに怖かっただろう。
どんなに寂しかっただろう。
 せめてもの思いでぼくは君の手を握った。
せめてもの思いでぼくは君の頭を撫でた。
 一瞬でも君が喜んでくれたらいいな。
 一瞬でも君が安心できたらいいな。
そう思った。

 そんな君はぼくに恋をしていたんだね。
その恋すら叶えられることは無かった。
職員の暴力によって閉じられてしまったんだ。
 君は確かに役に立たない人かもしれない。
君は確かに迷惑だけの人かもしれない。
世間の多くの人がそう思っていてもぼくは君を忘れない。
一瞬でもぼくを好きでいてくれた君をね。
 今、君は元気ですか?
それとももう死んでしまったのですか?
叶うならもう一度会いたい。
幽霊でもいいから会いたい。
 由美、ぼくの心に咲いた菫の花を
君に送ろう。
いつまでも忘れないよ。