懸念とは裏腹に、出産を終えたばかりのルドヴィカは上機嫌で兄妹を迎えた。

「ルイ、ネネ。あなたたちの妹よ」

 そう言って抱きかかえた赤子を見せながらルドヴィカは、聖母のように慈しみ深く微笑んだ。

 機嫌のいい時の母は、いつもより数段美しく見える。
 ヘレーネは心の底から安堵しつつ、母の腕に抱かれた小さな命に視線が釘付けになった。

 すやすやと穏やかな寝息を立てている小さな妹を見て、ヘレーネは胸が高鳴る。

 ふっくらとした頬も、長いまつげも、薔薇色の唇も、何もかもが愛らしくて目が離せない。

「……かあいい!」

 思わず声を上げると、ルドヴィカは嬉しそうに笑った。

「でしょう!? 二人とも仲良くしてあげてね?」
「もちろん!  おねぇしゃまですもの!」

 ヘレーネが張り切って宣言すると、ルドヴィカは目を細め微笑む。

「母上、この子の名前は決まった?」

 ルートヴィヒがじれったそうに訊ねると、母は誇らしげに胸を張って答えた。

「エリーゼお姉さまの名を頂戴することになったの……エリーザベトよ。可愛い名前でしょう?」

 エリーゼの愛称で親しまれるルドヴィカの姉のエリーザベトは、ルドヴィカのたくさんいる兄姉(けいし)の一人。
 優しく穏やかで慎み深い女性だ。

 そして、プロイセン王国の王妃となることが約束されている王太子妃でもある。
 そんな伯母の名を貰えるなんて、これ以上名誉なことはあるだろうか。

「エリーザベト……素敵な名前だね」

 ルートヴィヒが微笑んで言うと、ルドヴィカの表情はさらに華やいだ。

「さっそく、愛称を考えてあげないとね」
「……だったら、リシィはどうかな?」

 兄の提案に、ヘレーネは飛びつくように賛同した。

「しゅてき!」
「……そうねぇ……」

 ルドヴィカは思案する顔つきになった。
 彼女がもったいぶり、わざと焦らすときは許可を与えるときだ。
 兄妹の頬が期待で紅潮する。