トゥルン・ウント・タクシス家は、ヨーロッパに広く脈を張り各地の宮廷の奥深くに根を下ろしている。
それはウィーンでも変わりない。
エムメリヒ・トゥルン・ウント・タクシスは、目の前の本家の坊ちゃんを片目で眺めながら、かすかに炭酸が残る辛口の白ワインを飲み干した。
エムメリヒの鍛えられた体躯はひと目で軍人だと分かる。左目に黒い眼帯をした生粋の将校である彼は、トゥルン・ウント・タクシスのオーストリア分家の出だ。
若造と舐められがちな若き皇帝の傍らで仕え、鷹のように片目を光らせ威厳を添えるエムメリヒは、フランツ・ヨーゼフの信頼も篤く父とも友とも慕われている。
生粋のウィーン子であるエムメリヒは、『ホイリゲ』でワインを嗜むのが好きだ。
ウィーンには庶民的な家族経営の居酒屋ホイリゲがあちこちにあり、1年未満のワインの新酒が味わえる。
ワイングラスではなくジョッキでワインを飲むのがホイリゲ流だ。
眼帯で長身の有名人であるエムメリヒは、どこにいても目立つ。
喧噪から離れたテラスのテーブルに陣取って、四方山話をするのが一番安全だ。
目の前にいる赤金の髪が特徴的な青年はトゥルン・ウント・タクシスの候世子だ。
速いが乗り心地の悪い郵便馬車を乗り継ぎ、ヨーロッパ各国の分家に顔を出し情報収集に勤しんでいる。
後妻の子が跡目を継ぐかと思われたが、急に存在感を出してきた野心家の青年だ。
彼が求める情報を出さなければいけないが、近衛騎士隊長の職務から許される範囲内でお願いしたいものだ。
店内の響きが外のエムメリヒたちの耳にも飛び込んできた。
ホイリゲの小ぎれいな看板娘たちが色めきだっていた。
それはウィーンでも変わりない。
エムメリヒ・トゥルン・ウント・タクシスは、目の前の本家の坊ちゃんを片目で眺めながら、かすかに炭酸が残る辛口の白ワインを飲み干した。
エムメリヒの鍛えられた体躯はひと目で軍人だと分かる。左目に黒い眼帯をした生粋の将校である彼は、トゥルン・ウント・タクシスのオーストリア分家の出だ。
若造と舐められがちな若き皇帝の傍らで仕え、鷹のように片目を光らせ威厳を添えるエムメリヒは、フランツ・ヨーゼフの信頼も篤く父とも友とも慕われている。
生粋のウィーン子であるエムメリヒは、『ホイリゲ』でワインを嗜むのが好きだ。
ウィーンには庶民的な家族経営の居酒屋ホイリゲがあちこちにあり、1年未満のワインの新酒が味わえる。
ワイングラスではなくジョッキでワインを飲むのがホイリゲ流だ。
眼帯で長身の有名人であるエムメリヒは、どこにいても目立つ。
喧噪から離れたテラスのテーブルに陣取って、四方山話をするのが一番安全だ。
目の前にいる赤金の髪が特徴的な青年はトゥルン・ウント・タクシスの候世子だ。
速いが乗り心地の悪い郵便馬車を乗り継ぎ、ヨーロッパ各国の分家に顔を出し情報収集に勤しんでいる。
後妻の子が跡目を継ぐかと思われたが、急に存在感を出してきた野心家の青年だ。
彼が求める情報を出さなければいけないが、近衛騎士隊長の職務から許される範囲内でお願いしたいものだ。
店内の響きが外のエムメリヒたちの耳にも飛び込んできた。
ホイリゲの小ぎれいな看板娘たちが色めきだっていた。