すっかり忘れていた。
ちょっとぶつかったくらいで被害者ヅラかまして私に慰謝料を請求した後、挙句の果てにはハーゲン〇ッツを踏み潰すという重罪を犯した男だ。

そこまで記憶を掘り起こした私は戦闘態勢に入る。

「ここで会ったが100年目、、、先週のハーゲン〇ッツの無念は私が晴らす、、!!!」

そんな私に怯んだのか、男は1歩下がって私から距離を置いた。

「おい、ちょっ!ハーゲン〇ッツなんて俺がいくらでも買ってやるよ。落ち着けって」

その言葉を聞いて、私は構えた腕を下ろした。

「自分の少ないお小遣いで買うから美味しく感じるのよ。用が無いならいい加減帰りたいんだけど」

こんなことをしている間にも刻一刻とハーゲン〇ッツが溶けるタイムリミットは迫ってきているのだ。これ以上用が無い人に構っている暇は無い。

「いや、用っていうか、、変な男に絡まれてる女を助けようと思ったらお前だったから、、」

気まずそうに視線を逸らし、男は頭をかいた。

「もう自分で退治したし。その親切心を持っておきながら先週のあの態度は何よ」

これ見よがしに私は視線をエコバッグの中のハーゲン〇ッツに移す。

「あれは、、、」

必死に言い訳を探しているのか、男の口が開きかけたまましばらく止まる。

そのまま下を向いて黙った彼を置いて、私は足早にその場を去った。

去り際、男が何か言っているのが聞こえた気がしたが振り返らずに歩き続ける。

「もう2度と会いたくないな、、、」

そう呟きながら、私は既に溶けかかっているであろうハーゲン〇ッツを抱えて帰路についた。