「お、お坊ちゃま!!今までどちらに行かれていたのですか?屋敷中大騒ぎですよ!!外出する際は1人だけでもボディーガードを付けろとあれほど、、、」

ボディーガードの1人が俺の姿を目ざとく見つけ、走り寄って来る。

また長い小言か、、と思ったが、いつもは面倒くさくて嫌いなこの時間が、何故か今日はそこまで煩わしく感じなかった。
妙な女に会ったからだろうか。

「たまにはいいだろ、1人で外出するのも」

「いや、しかし、、、」

数人のボディーガードに囲まれ、怪我がないか心配されながら俺はあの女のことを考え続けていた。

今まで俺に歯向かってくる女はいなかった。

俺の近くにいるのは、恐れ、ひれ伏し、跪く女か、少しでもいい印象を残そうと媚びを売ってくるような女しかいなかった。

あんな風に正面から俺のことを睨みつけるような奴は、後にも先にもあいつだけだろう。

一連の出来事を振り返り、あの女の泣きざまを見れなかったことだけが心残りだ、と思った。
普通の女なら、あんなに追い詰めれば泣きながら土下座をするというのに、、。

そう思ったところで、俺の頭にはある名案が浮かんだ。

「俺の事を好きにさせてやる」

呟きながら、あの女が泣きながら許しを乞う姿を想像して、口から笑みがこぼれる。

必ずまた見つけだして、あの女を振り向かせて、俺に惚れたところでこっぴどく振ってやる。

そしてあの女の泣きざまを見て嘲笑うまで絶対に諦めてやらない。

「竹岩!調べて欲しい女がいる」

長年俺の面倒を見てくれている執事に、迎えに来たリムジンの中でそう頼んだ。

竹岩はどんな無理難題な仕事でも頼まれたら完璧にこなす、俺が信用する数少ない人間の1人だ。

深く詮索して来ず、ただ俺の命令に「はい」とだけ返事をした竹岩の隣で、俺は静かに微笑んだ。

リムジンの窓から、さっきあの女と出会った場所の方向をガラス越しに眺める。

「覚悟しとけよ、、、」

誰にも聞こえないような声で俺は小さく呟いた。