「冷める前に飲んだら?」

「そ、そうだな」

恐る恐るカップを持ち上げる綾川。

「毒味してないから不安なの?」

「そ、そうだよ!ブラックコーヒーが苦そうで怖いとかじゃないからな!」

明らかに怖がっているくせに違うと騒ぎ立てるヘタレ御曹司。

「、、毒身代わりに少し飲んであげようか?」

仕方ないなと溜息をつき、綾川に問いかける。

「ばっっか!間接チュウになっちゃうだろ!!!」

「え、、?」

茹でダコのような顔色になった綾川のウブな反応があまりにも意外で思わず聞き返してしまう。

「しょ、庶民が俺と飲み物を共有するなんて100年早いんだからな!」

「親切心で言ってあげたのに、、、」

何が間接チュウだよ。私の善意を勝手な下心に仕立てあげやがって。

何度目かわからない溜息をつきながらジト目で綾川を眺めていると、顔を顰めながらも頑張って大人の味を嗜んでいた。

「にが、、、いや、うまい!コーヒーはやっぱりブラックだよな!」

そんな綾川をみて思わず笑ってしまう。

「なに笑ってんだ!」

椅子にふんぞり返ってちびちびとブラックコーヒーを飲み進める彼は、終始「この椅子は硬い」「カップが安物だ」などと文句を垂れていた。