なんとか人通りのいない通りまで走り、掴んでいた手を離す。

「何だよ、手繋ぎたいのか?」

綾川に群がる女性陣を恐れている私の気持ちなど露知らず、彼は照れたような表情でこちらを見た。

「そんなわけないでしょ。殺されると思ったから逃げてきただけ」

「殺される?お前が?」

頭の上にはてなマークを浮かべて綾川が首を捻る。

「あんたのファンが沢山いたでしょ、あそこに」

ため息混じりの声で言うと、綾川は思い出したように頷いた。

「ああ、、、まあ、俺ほどの美貌を持ってるとそんなこと日常茶飯事だけどな!気にすんな!」

気にするわ。と言い返したかったが、今日が終われば今度こそ本当にもう関わることは無いと思って、黙ることにした。

「そういえば、何時からいたの?」

腕時計をずっと見つめていた綾川の姿を思い出し尋ねる。
失礼な話だが、時間通りに来るとは思っていなかった。

「え?ああ、12時くらいだよ」

それがどうかしたか、というような表情で綾川が答える。

「12時!!?なんでそんな早くから、、、」

ぎょっとして綾川を見ると、彼はさっさとこの話題を切り上げたいとばかりに早口で答えた。

「遅れたら嫌われるだろ。そんなことより早く水族館行こうぜ!黙ってたけど実は貸切だぞ!」

「か、貸切?!」

さっきからこの男には驚かされてばかりいる。

「ほ、ほら!さっきみたいに群がられたら困るからな。まあ俺ほどの財力があると貸切なんて簡単なんだよ」

「へえ、、、」

水族館へと並んで歩きながら、私はずっと彼のオチのない話を我慢強く聞き続けていた。