そこから後のことはあまりよく覚えていない。

警察による事情聴取もほとんどなかった。

怪我したのは彼だけだったし、それもトラックに接触したわけではなかったから。

あの出来事から数十分後には、私は彼のリムジンで自宅に送り届けてもらっていた。

生まれて初めてリムジンに乗り、本当にお金持ちなんだと他人事のように思った。

「あの、助けてくれてありがとう」

ふかふかの座席の上で、改めて、隣に座っている彼にお礼を言う。

「私ができることの範囲内でお礼もするよ」

そんな私の言葉に、彼は驚いたような顔をしたあと、ぼそっと呟いた。

「じゃあ、で、でで、デェトしようぜ」

「、、え？デート？」

まったく予想していなかった返事に、思わず聞き返す。

「そ、そうだよ！！文句あんのかよ！」

応急処置を終えて包帯をグルグル巻かれた彼が頷き、それと同時に私にスマホを差し出した。

「だから連絡先、交換しろよ」

その圧に負けて、LI◯EのQRコードを読み込む。

「綾川 湊、、、」

そのユーザーネームを見て、そういえば前にそんな風に名乗っていたなと思い出した。

そして、「少し非常識な男」と名前を変えておいた。
そんなことを露ほども知らない彼は、チラチラとこっちを見ながら何故か少し照れたように声をかけてくる。

「お前は特別に湊って呼んでいいぞ」

「あ、うん、、」

多分一生呼ぶことはないだろうが、一応返事をしておいた。

「私は如月 紬って言います」

「LI◯Eのユーザーネーム見たからわかるぜ！！！特別にこの俺が紬って呼んでやるよ」

得意げにスマホを振りかざす綾川。

命の恩人とはいえ、面倒くさい奴と知り合ってしまったなとばれないようにため息をつく。

そんなことをしているうちに家に着いた。

「あ、じゃあ、ここで、、」

運転手と、助手席に座ってる執事っぽい人に軽く会釈をしてリムジンを降りる。

「またな！紬！」

「うん、じゃあね、綾川」

「湊って呼、、、」

ドアをバタンと閉めると、何やら中で綾川が騒いでいたが無視して家に入った。