急いで交差点を渡っている途中。

誰かが大きな声で叫ぶ声がして、振り返ろうとしたその時、私のすぐ近くにトラックが迫っている事に気づき、思わず立ちすくんでしまった。

一瞬意識が飛んで、腕を強く引っ張られる感覚がした後、気付いたら、私は誰かの腕の中にいた。

その手が私の頭を抱いてくれていたから、衝撃は感じたものの痛みはほとんどなかった。

ドクンドクンと心臓の音がうるさく聞こえる。

それが私のものなのか、私を包む人のものなのかは分からなかった。

「おい」

低い声が耳元で聞こえたと同時に、また腕を引っ張られる。

上半身だけ起き上がって周りを見渡すと、トラックが私のすぐ横で急停止していた。

きっとあのまま進んでいたら私は帰らぬ人となっていただろう。

「大丈夫かよ」

そう声をかけてきた男を見ると、さっき放置してきたはずの非常識なあいつだった。

「助けてくれたの、、？」

元はこいつが悪いとは言え、まあまあ失礼なことを言った自覚はある。

それでも私を助けてくれたのか。

「なんで、、、？」

頭の中では疑問ばかりが浮かんでくる。

まさか慰謝料を請求されるのでは、、、と考え始めた私の横で男が顔をしかめる。

「いてぇ、、、」

彼の顔を見ると、左頬に大きな擦り傷が出来ていた。

肘からは血が滴り落ちている。

「なんでって言われても、、、別に体が勝手に動いただけだよ」

その真っ直ぐな目に、不覚にも胸がざわめく。

「、、、ありがとう」

自然と口をついて出た私の言葉に、彼が目を丸くした。

と、同時にトラックの運転席を出た男の人が駆け寄ってくるのが見えた。