「そうだろうねえ。 女の子って思春期が始まると変わるからねえ。」 「びっくりしたよ。 誰だか分からなくて。」
「お前でもそうだったのかい?」 「髪型まで変えてるんだもん。」
「見たかったなあ。」

 ぼくはかばんを部屋に置くと居間に入っていった。 ジュースを飲みながらテレビを見るのが日課なのだ。
いつものように冷蔵庫からジュースを取り出すと一口飲んでからテレビを点ける。 まだまだ昼だ。
面白い番組が有るでもなく無いでもない。 中途半端な時間帯である。
「つまんねえなあ。」 「あんたが喜ぶような番組なんてこの時間にはやってないよ。」
「そっか、、、。 失敗したなあ。」 「宿題でもやっといでよ。」
「入学したばかりだから宿題も何も無いよ。」 「そうか。」
 母さんは庭に出て洗濯物を確かめている。 今日はすっきりした晴天だからよく乾いているみたい。
「康太! 手伝って!」 何しろ、6人も住んでるから洗濯物も多いんだよねえ。
ぼくの下には義弘っていう弟が居る。 今年6年生だ。
ぼくとは全然似てなくて天体観測に熱を上げている天体バカ。
月がどうのとか、土星がどうのとか、聞いたって分からないような話を延々とし続ける変わり者。
将来は天文学者になりたいんだってさ。
「康太と義弘は何でまたこうも違うのかねえ?」 婆ちゃんには解けない謎らしい。
ほんとに違うんだよなあ。

 そんな義弘は昨日が始業式で今日も元気に遊んでいる。
「康太も遊んでおいでよ。」 婆ちゃんにはよく言われるけど、高校生になってまで走り回りたいとは思わなくてね。
家の向かい側には古い神社が有る。 なんでこんな所に神社が有るのかは知らない。
「いいか。 神様はお前たちをずっと見てるんだ。 朝に晩にきちんと挨拶していけよ。」
爺ちゃんには幼稚園の頃からうるさくうるさく言われてきた。 だからか、挨拶しないと何処にも行けないような気になるんだよなあ。
 鳥居は無いんだけど、狛犬がちゃんと見張ってる。 中のほうには拝殿もちゃんと有るんだよ。
 いつだったか、遊びに来た舞も一緒に行ったことが有るんだよなあ。
 狛犬の傍には手水鉢も置いてあって、手を洗ってから拝礼するようにって注意書きが添えてある。
 「ここに来るとなんだか落ち着くんだよなあ。」 父さんもたまには神社へ詣でるんだ。
普段はさ、工事現場の現場監督をしてるから忙しくて来れないんだけどね。

 義弘が何か叫んでる。 どうしたのかと思って行ってみたら、、、。
「神社にカラスが入っていった。」だって。 脅かすなよ。
カラスなんて何処にでも居るし、何処にでも入っていくんだから。
 4月といえば花見。 だったはずなんだけど、最近は桜の咲くのが早くなっててさあ、4月じゃあ花見も終わりなんだよね。
 神社からしばらく行くと桜がたくさん植わってる公園が在る。 そこの桜も八分ばかり咲いてしまってもうすぐ終わりかな、、、。
 年度末も重なってるから父さんもなかなか動けなくてね、やっと花見を出来るなあって思ったら桜はほとんど散ってしまった後だった。
「咲いてる桜もきれいだけど、散り際の桜もいいもんだぞ。」 強がってるのか負け惜しみなのか分からないけど、、、。
 いつもそんな調子だから舞と二人でスマホを持って咲いてる桜を写してくるんだ。
「きれいに撮れたね。」 「これで父さんも文句を言わないぞ。」
ハラハラと散ってくる花びらを手に取って舞の髪に降らせてみる。
「康太君、、、。」