ぼくは柳田康太。 高校1年生。
うちは珍しい大家族で爺ちゃんたちもまだまだ元気に暮らしている。
 やっとの思いで高校に入学したんだけど、入学式が有った日、爺ちゃんが不思議なことを言った。
 「お前のクラスに舞っていう女の子が居るだろう? あの子とお前は実はな、、、。」
「何か有ったの?」 「まあ、いずれ分かるだろう。」
爺ちゃんはそれ以来、舞のことは話さなくなった。
だからぼくも敢えて聞こうとはしなかったんだ。

 その舞、、、とは伊藤舞のことだ。
中学校も実は同じだったんだよ。 クラスは違ったけれど。
 舞は明るくて優しい子だった。
だからかな、クラスのみんなも舞が好きだったんだ。
 月曜日になるとさ、舞は迷惑そうな顔でラブレターを読んでいた。
「こんなの貰ってもさ、付き合うとか付き合わないとか決めれないんだよね。」
学校からの帰り道、いつもぼくは困っている舞の話を聞いた。
「私から返事をすればいいのかな? でもそれじゃあやばいよね。」
毎週のことだから舞もぼくもうんざりしていた。
結局、3年間 誰とも付き合わなかったんだよね。
もちろん、ぼくともさ。
 それだけ舞は徹底していた。 中途半端が嫌いだったんだ。
 舞の趣味はハーモニカ。
日曜日になると空き地で吹いてたりしたんだよ。 上手いって言えるほどでもなかったけどね。
ちなみにぼくはギターを弾いていた。 こちらもまた上手いって言えるほどじゃないんだけど。
 一回だけ予選会か何かで一緒にやったことが有る。 ほんとに一回だけだよ。
お似合いだとか言ってくれる人は居たけど、本人たちは大して気にもしてないんだ。

 そんなぼくらが高校生になった。 制服が変わると女の子も違って見えるから不思議だね。
後姿を見た時さ、舞だって気付かなかったんだから。
前に回って顔を確かめてからやっと声を掛けたんだ。
「どうしたの?」 「違う人かと思って。」
「え? 私は私だよ。」 「でもさあ、、、。」
びっくりするくらいに印象が変わってたんだ。 驚いたよ。
 それに中学までは短かった髪も伸ばしてるし、、、。
 「今日から二人とも高校生なんだねえ。」 「そうだよ。 びっくりしたなあ。」
「なんで?」 「舞ちゃんが別の子に見えたんだからさ。」
「マジ?」 「人違いだったらどうしようって本気で考えたんだからね。」
「そんなに変わってる?」 「うん。」

 私立 立花光洋高校1年、、、。
ぼくらは同じ高校の同じクラスになった。 同じクラスになるなんて夢かと思ったよ。
名簿を見ると舞は1番でぼくは最後。 まあ、しょうがないか。
クラスは40人くらいかな。 半分は中学からの同級生。
これから部活やら委員会やらで忙しくなるんだろうなあ。
 担任は貝原信二先生。 テニス部の顧問もやっているらしい。
学生時代は県大会にも出てたらしいね。
副担は荒川雅子先生だ。 こっちは音楽の先生だね。
先輩からはマッシーって呼ばれてるらしいんだけどなあ。
普段は優しいんだけど、いざ気に障るととんでもなくおっかないらしい。
 まあ怒らせないに越したことは無いようだ。

 そんなわけで入学式が終わって教科書やら体操服屋らを受け取ってぼくらは家に帰ってきた。
 爺ちゃんたちはまだまだ現役で働いているから居るのは母さんだけ。
「ただいまーーーーー。」 「お帰り。 高校はどうだった?」
「どうもこうもこれからだから分かんないよ。」 「それもそうだ。 舞ちゃんは元気かい?」
「元気だよ。 すっかり変っちゃったけどね。」