「ごめん、散らかってるけど…。」

週末の金曜日、雪と桜は部活動終わりに
そのまま一緒に雪の家に一緒に帰ってきた。

雪の妹の亜弥は中学生だったが、
今日は用事があって、帰りが遅くなるようだ。
祖母の家に寄って帰ると連絡があった。

母は残業で遅い。
父は同僚と飲み会で夕飯はいらないと
カレンダーにメモがあった。

予定外に家の中は雪と桜の2人になった。

小腹が空いて、台所のおやつケースをあさる。
チョコのお菓子と塩せんべいの袋があった。
炭酸ジュースのペットボトルと一緒に
お菓子の袋を持って、自分の部屋に
駆け上がった。

2階の雪の部屋で桜は部屋の中を
正座してジロジロと見ていた。

「部屋汚かった?」

「ううん、全然。綺麗な方だよ。
私の部屋より。」

「え、そうなの?」

テーブルにお菓子とコップを並べて、
ジュースを注ぎ入れた。

「はい、どうぞ。
こんなのしかないけど。」

「十分だよ。」

「ありがとう。」

桜は雪が注いだシュワシュワのレモンが入った炭酸ジュースを飲んだ。

「そういや、見せたいものって何?」

「恥ずかしいものはよけてあるけどさ。
写真アルバムとか見る?」

「え、雪が小さい時の?
見たい。どんな感じだったのかな。
気になる。」

桜は、雪の幼少期が想像できなかった。
気になって、雪が開いたアルバムに
前かがみになる。雪はかなり近くによってきた桜にドキッとした。
ワイシャツの隙間から見え隠れするものは
見てはいけないと思ってしまった。
そっぽをむいて誤魔化した。

「えっと、これかなあ。」

ペラペラとめくって、
雪が赤ちゃんの頃のページを見せた。
沐浴しているシーンで父がカメラを向けたらしく、母はにこにことしながら、楽しそうに体を洗っているところだった。大事なところはしっかりタオルで隠れている。

「あ、かわいいね。
やっぱり、雪って色白だね。
名前の由来でもあるのかな。」

「え、なんでわかるの?
肌白いから雪っていいじゃないって
母さんがつけたみたい。
すごいね。」

「えー、適当だよ。
いいねぇ。
雪の家族はみんな優しくて
あたたかい感じ。」

桜は順々にページをめくっていくと
大事に育てられたんだなというシーンが
たくさん写真としておさめられていた。
 桜は母に抱っこされて満面の笑みを浮かべている3歳くらいの雪を見て、涙が出た。

「桜、どうした?」

 雪は、慌てて、ティッシュを用意して、
 溢れた桜の涙を拭った。

「ごめんね。うん、ありがとう。
なんか、感動しちゃって、大切に育てられた
雪が羨ましく感じたよ。」


「え、ちょっと、待って。
桜だって大事に育てられたんでしょう。」

「そ、そうかもしれないけど、
お母さん子育て大変だったのわかるんだけど、
写真が少ないから。
こんなに丁寧にアルバムになってるの
すごいなぁって。
本当にいい家族だね。」

桜は出てくる涙を止められなかった。
幸せじゃなかったわけじゃない。
双子の子育ては大変だ。
ベビーカーも2つ。おむつの交換も2つ。
授乳は順番。もしくは父と母でそれぞれに
ミルク。愛情はたっぷり受けてきたつもりだ。
でも、雪の写真で一人一人丁寧に扱われてるのを見ると何だか羨ましく感じる。

桜のことがかわいそうになって、
雪はそっとハグをして、
頭を撫で撫でしてあげた。

「大丈夫だよ。桜も大事な家族いるから。
ヨシヨシ…。」

ハグされて、撫でられて、
嬉しくてさらに涙を流す。

雪は、目を見つめ合って、
そっと額にキスをした。

「わぁーん。」

 想いが溢れて、桜は雪にしがみついた。
 そばにいてくれる人のありがたさに
 嬉しすぎた。

 心が浄化された。

 学校ではいつも冷静に対応していた桜にも
 こんな一面があるのだと人間らしさが
 見えて、雪はもっと桜が好きになった。

 ダメなところがよく見える。
 泣いてる姿を見た桜が新鮮だった。

 雪は桜を落ち着くまでしばらくぎゅっと
 抱きしめていた。