雪が学校を通わなくなって1週間は経っていた。雪の席だけがぽっかりと開いている。

亮輔は心配していた。

ラインで連絡しても既読さえもつかない。

何か思うことがあるのだろう。

桜に聞いても同じで既読もつかないようだ。

親友であることは間違いない。

桜と付き合うというフェイクを
いつ気づくのかと騙していた。

なぜそれをしなければならなかったのか。

菊地雄哉の様子を伺いたかったためだ。

亮輔と桜が付き合っているというレッテルを貼れば、菊地から多少気持ちが離れるだろうという亮輔の作戦だった。
本人も騙すことになっていたが、こうするしか予防線をはるのは難しかった。
ネチネチと女みたいに
雪にちょっかいかけてくる菊地は、
どうしても桜と付き合うのは
気に食わないという。

危害が加わる前に対策を考えたのが、
合コンのセッティングと偽の交際宣言。
まんまと罠にかかった菊地は、
気に入った女子に声をかけて、
彼女を作っていた。

桜は眼中にないくらい可愛い子を
連れて来ていた。

読者モデルをしているという桜の
友人だった。

ブランドを持つみたいに
意識高い女子を好む菊地にとっては
いいカモだったのかもしれない。

誰か1人を大切にではない。
みんなが好きな女子は自分も好きだという
自意識過剰なやつだった。


「亮輔くん、今日、雪のところ行く?」

「ああ、そうだな。
 板書したノート渡したいし、
 課題もたくさんあるからな。」

「私も今は会いたくない1人かも
 しれないけど。」

「そんなことはないんじゃないか?
 何か言っておくことある?」

「ラインの返事はちょうだいって
 言ってて。」

「わかった。
 例のことはまだ言わないでおくぞ。」

「あー、うん。
 そうだね。
 しっかり面と向かって言ったほうが
 いいもんね。」

「ああ。
 悪いな、変なことに巻き込んで。」

「ううん。大丈夫。雪によろしくね。」

「ああ。」

 菊地に聞こえないように話す2人。
 桜は、後ろを向いていた体を前に戻した。
 

「ねぇねぇ、桜ちゃん。
 この間の絢香ちゃんいるでしょう。
 オーディション受けるらしいよ?」

「そ、そうなんだ。
 受かるといいね。」

 絢香とは読者モデルをしている
 桜の中学時代の同級生だった。
 接点はそこまで深くないが、
 連絡先は交換していたくらいだった。

 菊地に紹介するために
 合コンのセッティングで
 来てもらっていた。

 無事、菊地と絢香は
 彼氏彼女となったが、
 菊地の自慢話が半端なかった。
 有名人アピールがしつこかった。
 その度にうんうんと頷いて
 聞いていた。

 まだ雪に気持ちが向いてないだけ
 救いだろう。
 桜は心の中で安心していた。