「雪、部活行かないの?」

 教室でもたもたとバックに教科書と筆記用具をつめる雪に亮輔が廊下から席に向かって声をかける。

「待って、今行くわ。」

 ざわざわと騒がしい放課後。
 桜はバックの中身を確認しながら、
 ファスナーをしめた。

 そこへ、瑞希が教室に入ってきた。

「あ、漆島くん。」

 廊下に出ようとする雪に声をかける。

「え、何。」

「今日、一緒に帰れる?」

「え、ちょっと、無理。」

「なんで、用事あるから。」

「あー、そうなんだ。
 んじゃ、用事終わるまで待ってるよ。」

「……悪いけど、瑞希とは今日帰れない。」

「あ〜〜、そうですか。
 わかった。」

 不機嫌な顔をして、何かを察した瑞希は、
 廊下に出て階段の方へ向かっていく。
 
雪は、
瑞希が行ったのを確かめて、小さなメモを
桜がいる席にさらりと通りすがって、
机に置いた。

隣にいる菊地にバレたくなかったためだ。

「ん?」

 雪は、何も言わずに立ち去るが、
 人差し指でしーのポーズを取った。

(そういうことね。)

 桜は状況を何となく、察して、
 メモを広げた。

『今日、一緒に帰ろう。
 部活終わったら、ラウンジで待ってる。』

 走り書きで書いた割には、
ものすごく丁寧で硬筆のコンテストがあったら、優勝しそうなくらいの字が綺麗だった。

 桜は、心臓が早く打ち鳴らすのがわかった。今日のお気に入りのドラマを見ることの他に楽しみが増えた。

 小さなメモを制服のポケットにしまった。

「亮輔、カラオケのことなんだけどさ。」

 雪は、桜のことを気にしないようにして、
 亮輔の肩に手を置いて、廊下を歩いた。

 菊地は何をしてるのだろうと
 全然仕草に気づいてないようだった。

「カラオケ、誰と行く話?」

「だから、綾瀬と俺と、亮輔と
 あと、隣のクラスの
 あゆみちゃんだっけ?」

「…え?何、マジで誘ってくれるの?」

「俺は、無理だけど。
 どうにかして、誘ってみるわ。」

 瑞希と同じクラスの亮輔が片想いしている
 市川あゆみを一緒に誘おうとしていた。
 
 雪は、初めての試みだ。
 全く話したことない人とカラオケに
 行くのだから。
 それでも、いつも助けてくれる亮輔のためだとひと肌ぬごうとした。

「でも、俺、まだ、何も話したことないし、
 急に会ったら、嫌がられない?」

「まぁまぁ、何とかフォローしてもらおう?
 桜に。」

「え?瑞希ちゃんじゃないの?
 綾瀬って。」

「…?」

 顔を見合わせた2人。

「俺、瑞希と付き合ってるって1回も 
 言ってないぞ。」

「…え?いつの間に?
 てか、何それ。
 どういうこと?」

 雪は亮輔の口を塞いだ。
 小声で話す。

「ちょっと、声大きいって。
 あとで詳しく話すから。」

「ちくしょー。雪に先越された…。
 てか、疑いは前からあったけどな!」

「でしょうね。
 あんだけ近づいてくれば。」

「……本当に付き合ってないの?」

「何回も聞くな。」

「まさか、二股じゃないよな?
 双子だし。」

「違うよ。」

「あー、安心した。
 お前がそんなにゲスとは
 思いたくなかったから。
 そっかそっか。
 雪ちゃん、遂に男になりますか。」

「いや、前から男だって〜の。」

「……知ってるつーの。」

 亮輔は口を手にあてて、
 ぷぷぷと笑って逃げた。
 鬼ごっこが始まった。

 そういうのが楽しいお年頃だ。

 雪は陸上部の校庭に、
 亮輔はバレーボール部のため
 体育館に向かった。

 カザミドリは風一つ吹いてないため、
 不機嫌そうに止まっていた。