扉の向こうから歌が聞こえてくる。

桜のいないカラオケに
雪は参加していた。

瑞希が誘って連れてきたクラスメイトが
あと2人。
女子3人男子2人の
なんともアンバランスなカラオケ会に
なってしまった。

雪は数曲歌って、部屋の外に出た。

待合室のベンチに座り、
スマホの画面を見て、
果物を落として消してのゲームに
1人夢中になっていた。

部活で楽器練習中の合間を見て、
桜は雪にラインのメッセージを
送っていた。

『今日は参加できなくてごめんね。
 瑞希、迷惑かけてないかな?
 何か変なことしてたら注意してくれて
 いいからね。』

 姉妹の姉である以上、妹のことは
 しっかりと見なくてはという思いが
 強く出た。

 雪は、メッセージを見て、
 すぐ返事を返そうと
 スマホをタップしようとした。

 部屋の扉を開けて、ドリンクバー用の
 コップを持って出てきたのは瑞希だった。

「あれ、いないと思ったら、
 漆島くん、何してるの?
 こんなところで。
 早く、次の曲入れて欲しいな。」

「あー、もしかして、
 ドリンクバー取りにきたの?」

 雪は、持っていたスマホを
 ズボンのポケットに
 桜に返事を返せずに途中の画面のまま
 閉まっていた。

「俺も、おかわり取りに行くかな。」

「……んじゃ、一緒に行こうよ。」

「ああ、コップとってくる。」

 雪は、部屋の扉を開けて、
 バラードを歌っている亮輔を
 尻目にささっと抜けてきた。

「ほらほら、こっちだよ。」

 瑞希は2人きりになるのが
 嬉しいそうだった。

 カラオケに来ても気を使わない仲なら
 いいのだろうけど、
 初めて一緒にいく友達の前では
 歌いづらかった。

 雪は、引け目を感じていた。

 瑞希はドリンクバーコーナーで
 氷を入れてから
 紅茶をコップに注いでいた。

「漆島くんもいる?
 氷。入れてあげようか?」

「氷は大丈夫。
 炭酸のコーラだから。」

「コーラに氷は入れない派?」

「うん。」

 雪はコップにコーラを注いで、
 すぐに一口飲んだ。

「綾瀬、紅茶好きなの?」

「うん。レモンティーとか
 ミルクティーとか
 よく飲むよ。」

「そっか、桜も一緒?」

 突然、呼び捨てに桜と呼ぶ言葉に
 ドキッとする瑞希。
 部屋に戻ろうとコップを持って
 進んでいく。

「う、うん。そうかな。
 多分ね。」

「そうなんだ。
 俺、紅茶、
 あんま好きじゃないんだよね。
 コーヒーとか、カフェオレは
 飲めるんだけど。」

「漆島くんって
 コーラ飲むタイプじゃないと
 思っていたよ。」

「え、なんで?
 普通に炭酸飲むけど。」

「炭酸飲む人って、結構やんちゃな人って
 イメージあるから。」

「俺、やんちゃじゃん。」

「えー、どの辺が。」

「この辺が。」

 上腕二頭筋を見せつけた。
 可愛らしくポコっと筋肉が浮き出ていた。
 まだまだ筋トレが足りないようだ。
 瑞希の笑いがとまらない。
 意外にウケたことに嬉しかった。

 部屋の中に仲良く入っていくのを
 亮輔はあまり面白くない顔をした。

「ちょ、雪!!
 今度はお前が歌えよ。
 得意なの入れたから。」

 亮輔は雪にマイクを渡した。
 イントロで流れてきたのは、
 バラードの人気曲だった。
 亮輔と2人で行く時によく歌う曲だ。

 しっとりと歌う雪の歌声に
 同席していた女子たちはうっとり
 聴き惚れていた。

 その頃、部活のクラリネット練習に
 忙しくしていた桜は、
 ラインの返事が無く、既読の印だけ
 付いている雪のメッセージに
 モヤモヤと気持ちが落ち着いて
 いなかった。