家の玄関ドアを開けると、
スマホを確認した。

雪は、着信履歴に
驚愕した。

今日は金城深月と
一緒に出かける約束していた。

デートの誘いだったはずだったのだ。

桜と一緒にいて
話したことで満足したようで
行きかけたデートをすっぽかした。

約束の時間は
午前10時に駅の中のベンチで
待ち合わせだった。

そもそも駅にも行ってない。
確かに駅前であったが、
さらに奥で
全然遠いところだ。

そして、
自宅に着いた今の時刻は午前11時半。
これからお昼ご飯を食べるかという時間だ。

スマホの着歴は
なんと新記録の100件
ラインメッセージもこめたものだ。

『今どこ?』から
始まって、
『事故にでもあった?
 大丈夫?』になっている。

金城の妄想は膨らんでいるようだ。

雪は、電話をかけてみた。

コールが何度もかかる。

もう飽きられてしまったのだろうか。

全然出ない。

雪は、
もうスタミナ切れのようで、
自分の部屋に戻り、
ベッドにどんと寝っ転がった。

桜との会話で心が満足していた。

お腹が空かなかった。


そのまま、
夕日が部屋に差し込んでくるまで
眠ってしまっていた。

またループするように
スマホには金城のラインメッセージが
大量に送られてきていた。



___翌日の学校にて

電車に乗ったが、席には座れず、
吊り革をつかんでいた。

隣には亮輔がいた。

一つ、あくびをした。

「大丈夫か?」

「ふわぁ…。
 夕方まで寝ちゃってさ。
 夜眠れなくなって、
 寝たの午前2時だったわ。」

「あー、そっか。
 よく起きられたな。」

「妹の目覚まし時計に
 助けられた。」

「あー、もう、家族みんなに
 見放されてるな。
 前は起こしてくれたろ?」

「うん、たぶん。
 俺、起きるまで時間かかるから。
 自分の目覚まし時計2個と
 スマホのアラームと、
 たまたま今日は妹がね。
 セットしてくれたみたいで。
 でも、起こしてくれてもいいじゃんね。」

「起こす作業も大変なんだぞ。」

「…だよな。
 気をつけます。」

 雪は、なぜかぺこりと亮輔に謝った。

「俺に言われてもな、困るけど。」

「…悪い悪い。」

 雪と亮輔は、
 電車が停車すると、出口に
 颯爽と向かった。
 バックを肩に持ち直した。

「今日さ、俺、弁当忘れたんだよね。
 亮輔、購買行かない?」

「えー、別にいいけど。
 おごってくれる?」

「パン1個くらいならね。」

「マジか。冗談で言ったんだけど。」

「んじゃ、買わない。」

「いや。ごめんなさい。
 買ってください。お願いします。」

「そう?
 いいよ。おごっちゃる。
 屋上いこうよ、たまには。」

「いいね、それ。
 バチクソいいね。
 俺は、たっぷりランチだな。
 弁当もあるし。」

「おう。」
 
 朝はご機嫌で過ごせた。

 亮輔とゲームの話で盛り上がりながら
 話して駅から学校まで30分を歩いた。
 

 昇降口に着いてすぐ、
 金城深月に会った。

「漆島くん!!」

 至近距離まで来て、
 何をされるかと思った。

 いきなり、頬をバシンと叩かれた。

(あれ、俺って金城と付き合ってたっけ。
 ただ、会おうよって約束しただけ。
 なんで叩かれる?)

「え?」

 叩かれた頬を自分の手で触れた。

「あのさ、無視するって良くなくない??」

「え、あ、ごめん。
 返事返さなかったこと?」

「あとさ、用事があるなら、
 前もって連絡するでしょう。
 ちょっと、先約あるなら
 初めてから行ってもらっていい?
 サイテー。」

 話の趣旨がわからない。
 雪は混乱した。

「漆島くん、綾瀬さんと付き合ってるの?
 駅前の自販機でイチャイチャしていたの
 友達が見たって言ってたよ。
 私と友達になってる場合じゃないよね。」

「へ?は?あ?」
 
 とてつもなく混乱する。
 それを聞いた亮輔も
 裏切られたようで鬼のような顔に
 なっている。

「おい、雪。
 どういうことだ。
 話聞いてないぞ。」

「ちょ、ちょ、ちょっと待てって。
 誤解だって。
 俺と綾瀬は…。」

「うわ、呼び捨て。
 仲良さげだわ。」

 なぜか、オカマスタイルになって、
 金城に同意を求めに行く。
 金城も一緒になってこちらを見る。


「ちょちょちょっとー。
 マジ、勘弁してくれない?」

「あ、漆島くーん!!」

 校門から走ってくる
 綾瀬桜が手を振っていた。
 桜の横には瑞希もいる。
 今ここに来たら、
 余計にややこしくなると
 感じた雪は、その場から逃げ出した。
 校舎の中に入っていく。

 亮輔と金城は納得できずに追いかける。
 手を振った桜は、恥ずかしくなって
 後ろに手を隠した。

 「桜、何かやらかしたの?
  漆島くんだっけ。
  逃げていくよ。」
 
 双子の妹の瑞希はボソッと言う。
 桜は、頬を赤くさせて、ごまかした。

「べ、別に、何もないよぉ。」


 妹にはまだ話していなかった。
 部活での出来事を
 教えたくなかったからだ。


 いつも通りに何もない様子を醸し出した。


 桜は、佐藤佳穂が横切ったときは、
 顔がひきつって何も言えなくなっていた。


 その表情を見落とさなかった瑞希は、
 なんでだろうと不思議で仕方なかった。