車に乗る時も男は紳士に誘導してくれ、親近感の湧くような優しげな表情を浮かべ私に笑顔を向ける。
だから私も自然と作られた完璧な笑顔を彼に向けた。
ちゃんと、笑えてるよね……。
「出かけるの疲れるから苦手だって聞いてたから、外に連れ出すのにやっぱり躊躇してたんだ。なるべく遠出にならないようにしてるけど、もし、疲れたら直ぐに言ってね」
「……はい、お気遣いありがとうございます」
そう言って助手席に乗ったままお腹の上にカバンを乗せぎゅっと抱き締めて出発を待っていた。
「忘れてる、危ないよ」
男の腕が視界前回に広がり、ふわっとミントのスッキリした香りが鼻をくすぐる。
ち、近ッ/////
身体がカチコチに固まってしまうのは自然な事だろう。
正直言って、男性には慣れていないから。
カチャ……――。
「ごめん……びっくりしたよね」
俯いてるし、髪の毛で隠れてるからバレてないよね……。



![[壱]狂愛~ これが愛だとしたら残酷すぎる](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1656874-thumb.jpg?t=20220107095143)