果たして……
お母さんを味方にし、上手く行くのだろうか?

疑問に思い、悩んだが……論より証拠。

迷っていても仕方がない。

それに考えていてばかりじゃ、何も変わらない。

まずは、行動しよう。

決めた!

私は、遥の助言に従い、部屋へお母さんを呼んだ。

本当に大事な話があると頼み込んで。

いつにない、ひどく真剣な私の顔を見て、お母さんはどう思ったのだろうか?

でも、いつもの明るいお母さんのノリで、私の部屋へ来てくれた。

「あらあらあら、(りん)ったら、本当に大事な話なの?」

ここで(はるか)が、フォロー。

「ええ、彩乃(あやの)ママ。凛がこれから話すのは、本当に本当に大事な話なんですよ」

「へえ! 本当に本当に大事な話? 凛、本人より、親友の遥ちゃんが言うのなら、間違いないわね、うふふふ」

ええっと、それって、お母さん、何?
遥が言うのなら間違いないって……

自分の娘を、信用全くナッシングって感じに、
思い切りディスっているんですけど……

心へ、大きなダメージを喰らったが、臆してはいられない。

私の初恋を成就させる為に遥が考えてくれた、作戦の第一弾だもの。

「じゃあ、凛、まじめに聞くわよ、話してみてちょうだい」

と言い、お母さんは姿勢を正した。
表情も真剣になっている。

しかし、いざとなると……どう切り出して良いのか……
情けないけど、頭が回らない。

ヘタレな私の様子を見て、遥が更にフォローしてくれた。

「あの……彩乃さん、10年前、凛が6歳の時にショッピングモールで、迷子になったの(おぼ)えていますよね?」

遥は笑顔で母へ尋ねた。

対して母は、

「ええ、当然よ。はっきり憶えてるわ。……ショッピングモールで買い物中、いつの間にか凛が居なくなって、大騒ぎしていたら、いきなり館内放送が流れて、凛が管理事務所に居るって言われ、急いで駆けつけたもの」

「そうです。で、その続きの話を凛がしますね」

「ん? その続き? 遥ちゃん、なあに、それ?」

首を傾げるお母さん。

ここで、遥がフォロー。

「はい! ほら、凛! ここでバトンタッチ! 勇気を出して! 貴女は10年越しの初恋を絶対に(かな)えるんでしょ?」

「う、う、うん! あ、ありがと! 遥!」

ありがたい!
ナイスタイミング、遥のフォロー。
本当にありがとう!

「ええっと、お母さん」

「なあに? 凜」

「そ、その時……同じくらいの年齢の、どこの誰だか、知らない男の子に管理事務所へ連れて行って貰ったって、私、言ったよね?」

私は一生懸命言葉を絞り出した。

そんな私を見てお母さんは柔らかく微笑む。

「ええ、確か、管理事務所の方も、同じ話をしていたわね……凜を連れて来てくれた男の子……名前も言わずに行っちゃったって」

ここで言う。
私は今日、運命的な再会をしたんだって!

「お、お母さん! あんまり、びっくりしないでね。そ、その男の子とね、き、今日! さ、再会したのよ! 学校で!」

私の話を聞き、さすがにお母さんも驚く。

「え、ええっ!? そ、その男の子に!? さ、再会!? が、学校で!? そ、それ本当!?」

さすがに、思いっきり噛んでいるお母さん。
その様子は、私とそっくり!

やっぱり親子、母と娘かあ……

そう思ったら気持ちが軽く、楽になった。

もう大丈夫。

いつものように話せる。

私は更に言う。

「うん! 本当! 今日ね、転入生が私達のクラスへ来て! 私の名前を(おぼ)えていて、その時、10年前に私とした会話を、私へはっきり言ってくれたの!」

「そ、その時の!? 凛とした10年前の会話!?」

「うん! あの時、お母さんにも言ったけど、その子はね! 『ぼくもさ、迷子になった事あるんだよ』って言ったわ」

「あ、ああ! そ、そうよね、凜! お母さんも思い出した!」

「それと! 『お姉さんにお願いすれば絶対に大丈夫だよ! すぐにお父さんとお母さんが来るよ!』とも言ったの!」

私はお母さんにそう言い、10年前の記憶をたぐった。

はっきりと……10年前の光景がリフレイン! 
……鮮やかに(よみがえ)って来る。

ショッピングモールで迷子になり、ただただ泣く私を、
優しく手を握って……颯真(そうま)君は……励ましてくれたんだ。

「それでね! お母さん! あの時の、男の子の名前は、岡林颯真(おかばやし・そうま)君っていうのよ……」

「へえ、岡林颯真君か。名前はどういう字を書くの?」

「ええっとね……岡は……」

と私は名前の漢字を教え、

「お母さん、私ね。10年前に言えなかったお礼をとうとう言えたよ。ありがとう! って言ったら、また彼は、……颯真君は言ってくれたの。何かあれば、俺が守るって……凄く、凄く、嬉しかった」

「凛……」

「それではっきり分かった! 私の気持ちが! 颯真君はね、……初恋の相手だと思うの、お母さん……」

10年の想いを込め、言う私。

ここで遥がまたフォローしてくれる。

「でもね、彩乃ママ。10年()って、成長した颯真君は、カッコいいイケメンで、クラスの女子に大人気。恋のライバルがいっぱいなんです! 凛はね、戦わないといけないの」

「恋のライバルがいっぱい……凛が戦わないといけない……」

「うん! 10年越しの素敵な初恋を、凛が成就させる為に! 私、凜が幸せになる為だったら、一生懸命、応援します!」

「遥ちゃん……貴女……凜の為に応援してくれるの?」

「そうです! 全身全霊で応援します! 凜は私の一番大事な友達、一生大切にしたい最高の親友ですからっ!」

きっぱりと言い切った遥。

お母さんは黙って遥を見つめている。

「………………………」

「こんなに運命的な再会をしたんだもん! だからね! 私と一緒に彩乃ママも! 凛の初恋が(かな)うよう全力で応援してください! どうか! どうか! 宜しくお願いしますっ!!」

遥は身を乗り出し、熱く熱くお母さんに迫った。

何という!
遥は、まるで自分の事のように、私を思いやってくれている。

「は、遥ああ!!! あ、ありがとうぉぉぉ!!!」

嬉しくて、本当に嬉しくて……
胸がいっぱいになった私は大声で叫び、遥に抱きつき、号泣していたのである。