海斗君が部活の練習が休みとなった日の放課後……

私は、颯真君、遥、海斗君を連れ下校。
4人で私の自宅へ向かっていた。

颯真君を、お母さんに顔合わせさせ、
5人全員でラスボス『お父さんの攻略作戦』を練る為だ。

……1か月前とはガラリ状況が変わっていた。

これまでの経緯、そしてランチを共にするようになって、
クラスメートは勿論、校内中に私たちが付き合っている事が認識されつつあった。

なので一緒に下校しても、何も言われないし、
当たり前みたいに、自然にスルーされていたのだ。

遥、海斗君はいつも通り。
まあ、このふたりは今まで何度も、私の自宅へ遊びに来ていて、
お母さんは勿論、お父さんとも仲が良い公認のカップル。

でも私には、

「凜! 男子と付き合うなんて、全然早い! お前はまだまだ子供だ」

とか、しかめっ面で何度も言う。

「父親なんて、そんなものよ」

と、お母さんは笑っていた。

話を戻すと、一緒に私の自宅へ向かう颯真君は少し緊張気味。
いつもの颯真君じゃない。

海斗君が、

「おお、颯真君、どうした? 緊張しているのかい?」

「あ、ああ、海斗君。ちょっと……どきどきするんだ」

「あははは、分かる! 分かるぞ! 俺が初めて遥の家へ行った時の事を思い出すなあ」

などと笑い、硬くなった颯真君の肩をぽんぽん叩いて、勇気づけていた。

そして、

「何、緊張してるんだ? 今日は彩乃ママだろ? まだまだ! 前哨戦だよ! ラスボスとの!」

と、いたずらっぽく笑った。

遥も、

「颯真君! 情けないわよ! しゃきっとしなさい! 胸を張って堂々と! 男は度胸、女は愛嬌って言うでしょ?」

と先日宣言した通り、『姉』の如くふるまう。

「くっそ! ふたりとも! おぼえてろよ!」

と、颯真君は苦笑。

おみやげに買った洋菓子が入った手提げ袋を、気合を入れるように、
ぎゅっと持ち直した。

強気な遥と、笑顔が優しい海斗君を見ていると、
男は度胸、女は愛嬌ってもはや死語、真逆だと思うけれど……

まあ、良いかと、私は颯真君を励ます。

「大丈夫、颯真君、リラックスだよ」

「ああ、悪い! 好きな女子の親御さんに会うなんて、生まれて初めてでさ。すっかりチキン野郎になっちまった」

「大丈夫! 私の大好きな颯真君は強いんだもの! いつも私を守ってくれるから!」

私は、精一杯の笑顔で元気づけた。

すると、颯真君は超シンプル!
単純明快に変身!

「よし! 凛ちゃんに元気を貰った!」

しゃきっとして、本当に元気良く歩き出した。

そんなこんなで、私の自宅、扉の前。

4人全員で並んで立っている。

私の励ましで、一旦は元気が出た颯真君。
さっきほどではないが、ほんの少し表情が硬い?

遥が完全に『姉』キャラ。
いたずらっぽく笑い、颯真君をからかう。

「もしも、颯真君ひとりで、凛の家を訪ねたら、ピンポンダッシュ確定だねっ!」

「うっさい! 俺は絶対に逃げないよ」

と、颯真君、遥へ「べ~っ」と舌を出し反撃。

そして軽く息を吐き、笑顔で私へ、

「凛ちゃん、俺は大丈夫だ。いつでも、お母さんを呼んでくれ」

と頼んで来た。

「了解!」

返事をした私は、カメラ付きインターフォンのボタンを押した。

『は~い』

……すぐ返事があった。

お母さんだ!
多分、私たちの到着を待っていたのだろう。

私は即座に返事を戻す。

「お母さん、帰ったよ。3人を連れて来た。インターフォンのカメラモニターに映っているでしょ?」

『うん! 映ってる! 今、行くよ!』

私の返事に対し、お母さんも元気な声で応えてくれた。

……颯真君との恋愛の進行状況は、タイミングを見て、お母さんに話している。

べらべらべらと、何でもかんでもではなく、要点のみを伝えていた。

世間にはそういう場合、娘の恋愛を聞きたがるお母さんも、存在すると聞いたけど。

しかし、私のお母さんは基本は放任主義。

私から相談を受ければ親身にはなってくれるが、
基本的には「自分でやりなさい」の突き放しタイプ。

私は段階的に、シンプルに伝えた。

颯真君といろいろあったが、上手く行って付き合う事となった。

遥にスマホで撮って貰った、颯太君とのカップル写真を見せ、
「彼が颯真君」と教えた。

そうしたら、
「へえ、颯真君、かっこいいね!」と褒めてくれた。

「颯真君ファンのクラス女子たちと上手くやっていけそうだ」と伝えたら、
「良かったねえ」と喜んでくれた。

たった、こんなやりとりだけ……

じっくり相談したのは最初だけだ。
でも……深い愛情が伝わって来る。

そんなお母さんが、私は大好き!

つらつら考える私であったが、
……………………しばし経って、扉が開けられた。

開けられた扉の向こうにお母さんの笑顔があった。
……満面の笑み。

「皆さん、よくいらっしゃいました! 話は後で、さあ! どうぞ中に入ってください!」

声を張り上げ、お辞儀をしたお母さんは、
明るく私たちをいざなったのである。