翌日、いつものように、朝のあいさつをすると反応が物凄かった。

クラスのほとんどの人たちが、私へあいさうを返してくれたのである。

そして、皆がお互いに元気よく、あいさつを交わしていた。

あいさつを交わす心地良さを全員が感じているのか、皆、笑顔。

何か、クラスの一体感が、とんでもなく増した気がする。

そして、午前の授業が3つ終わり……

キ~ン、コ~ン、カ~ン、コ~ン!!

と、いつものごとく、
結構なボリュームでチャイムが鳴り、昼休みとなった。

そして何と、颯真君が声をかけずとも、クラスのほぼ全員が、
学食へ出発すべくスタンバイしていた。

わお!
凄い!

と思って、颯真君を見たら、Vサイン!

この流れに乗れ!
って感じ。

「行こうぜ! 凛ちゃん! 遥ちゃん!」

颯真君のGOサインが出た!

「遥! おひる行こ!」

「了解! 凛!」

クラスメートたちと一緒に、学食へ出撃!
廊下でスタンバイ状態だった海斗君も合流!

授業終了後、速攻で移動したから、まだそんなに他クラスの生徒たちは来ていない。

私たちはこれまた速攻で、思い思いのメニューの料理をゲット。

確保した席に持ち帰り、

「いただきます!」

と、颯真君の合図に、「いただきます!」と応え、
食べ始めた。

と、そこへ1年生の他クラスからも続々、参入が。

多くの人達が、メニューを持ち、空いている席へ座った。

あっという間に、私たちが陣取る学食の一画は、1年生だらけになってしまった。

と、そこへ……

「食事中、申し訳ない。ちょっと良いかな?」

と、聞いた事のある声が、私の耳へ入った……

え?
と思い、声のした方を見やれば、立っていたのは、以前強引に私を誘おうとした、
他クラス陸上部の相原亮(あいはら・りょう)さんだった。

すかさず!
颯真君が!

続いて!
海斗君が!

ふたりがほぼ同時に、座っていた椅子から立ち上がった。

そして遥は座ったまま、相原さんを「きっ」とにらんだ。

3人から見つめられ、相原さんは苦笑。

どうするのかと思いきや、柔らかい笑顔で、私に深々と頭を下げ、謝った。

「海斗から話を聞いたかもしれないけど、凛ちゃん、君にもう一度謝りたかった。本当に申し訳なかった!」

敵意が全く感じられない相原さんの穏やかな様子を見て、海斗君が問う。

「亮、約束……本当に守ってくれるんだな?」

「当り前だ、海斗。俺、結局、凛ちゃんとは縁がなかったよ。……いつか、好きな子に巡り合えるよう、まずは競技で頑張るから」

と相原さんは答えてくれた。

ああ、先日もちゃんと謝罪したし、相原さん……やっぱり礼儀正しいな。
海斗君の言った通りだよ。

ここで、立っていた颯真君と海斗君が顔を見合わせた。

ふたりとも、大きく頷く。

そして颯真君が私へたずねて来る。

「凛ちゃん」

「はい、颯真君」

「約束さえ守ってくれるのなら、相原君は同じ学校の仲間だ」

相原さんは、同じ学校の仲間……確かにそうだ。

颯真君がこんな事を言うのは意外だけど、私は素直に頷いた。

「ええ、そうね」

「凛ちゃんの隣の席で食事、とかは絶対にナシだけど、相原さんがこの場へ入る事を許してやってくれないか?」

「う、うん……」

颯真君の言葉を聞き、少し驚いた。

私たち3人から詳しい事情を聴き、
颯真君は、相原さんとの『仲直り』を考えていたのかもしれない。

もしかしたら、ハンバーガーショップでの打合せ後、
海斗君と男同士、ふたりでいろいろ相談したのかもね。

そして、言い合いをした相原さんの、素直な謝罪を受けて、
『仲直り』を決めたに違いない。

と、ここで海斗君も。

「いきなり押しかけて来て、ちょっと、びっくりしたけれど、俺は信じていた。亮は、誠実な奴だってさ。そして今日来たのは、凛ちゃんへ改めて謝罪し、ちゃんと『けじめ』をつけたかったんだろ? なあ、亮」

海斗君からたずねられ、相原さん。

「ああ、そうさ」

と、肯定(こうてい)した。

海斗君は、いたずらっぽく笑う。

「それと、さびしんぼの亮は、俺たちの仲間にも入りたかったんだろ? この場にはこの学校の1年生、ほとんどが来ているからな」

「ああ、海斗、その通りだ……『ぼっち』は嫌だからな」

苦笑した相原さんは、再び肯定した。

私だって、もしも遥が親身に付き合ってくれなければ……
クラスにろくに友だちもおらず、とんでもなく『ぼっち』だった。

ここで颯真君が、相原さんへ問う。

「相原さん、念の為、俺からも聞こう。もう二度と凛ちゃんに無理は言わないな?」

「ああ、言わないよ。ここに居る全員に誓う!」

相原さんは大きな声で力強く言い放ち、私達へ約束してくれた。

今度は海斗君が遥へ、

「遥も良いかな?」

「うん、私は許すよ。相原さんがきちっと約束を守ってくれるのなら」

遥は、海斗君を信じている。
だから、あっさりOKした。

私も、颯真君を信じよう!

そして、ここで、最後に締めるのは私だろう。
はっきりと言わないといけない。

変に余計な事を言わずに、ただただシンプルが良い。

私は微笑み、相原さんへ告げる。

「相原さん、同じ学校の『仲間』として、これからも宜しくお願いします」

「あ、ありがとう! こちらこそ、宜しく!」

私たち4人全員が謝罪を受け入れ、相原さんは、また頭を下げたのである。