翌日、私は元気良く登校した。

自分磨きを決意した日よりも、100倍元気良く登校したのだ。

なので今朝は1,000倍!
いや、10,000倍!
私は元気かもしれない。

どこへどうなっていたか、はっきりとは思い出せないが、何かで読んだ事がある。

人が恋愛をすると世界が変わる。
見える周囲の風景も全く変わってしまうと。

おいおい、景色が変わるわけないじゃないかと、突っ込みがあるかもしれない。

でも、変わってしまうというのは、確かにその通りだと思う。

初恋が成就した想いが、私の世界を変えてしまったから。

通い慣れた通学路が、
街並みが、
全てが、
とても素敵に感じてしまう。
呼吸する空気さえも、ひどく美味しく感じるのだ。

超が付く前向きな気分で教室に入り、
私は、ひときわ張りのある大きな声であいさつする。

「おはようございま~す!」

対して、

「おはよう!」
「おっはよう!」
「おっはあ!」

「おはようっ!」
「おっはようっす!」
「おっはあ!」

「凛、おはよう!」
「山脇、おっはよう!」
「おっはあ! 凛ちゃん!」

などと、クラスの半数以上が、打てば響けとばかりに、間を置かず
私へ元気にあいさつを返してくれた。

中には、苗字、下の名前などで呼んでくれるクラスメートも居た。

当然、親友の遥も私の下の名前だ。

「凛! おはよう!」

「おはよう! 遥!」

と、親友へぶんぶん!手を振った私。

そして、既に登校していた颯真君が、

「おはよう! 凛ちゃん!」

と明るく大きな張りのある声で、あいさつを返してくれた。

「おはようっ!」
「おはようっ!」

颯真君にならえしたのか、取り巻き女子たちも数人は私にあいさつを返してくれた。

もしかしたら、昨日起こった相原さんの事件について、
……昨日の私のように、
颯真君の体調を心配して、いろいろ(たず)ねていたのかもしれない。

でも、まずは元気にあいさつ、あいさつするのみ!

「おはようございます!!」

と、私も、いっそう元気良く!
颯真君と取り巻き女子たちへ、もう一度あいさつをしたのである。

お母さんのアドバイス、『自分磨き』……地道にコツコツやって良かった!

これからもず~っと!
一生続ける。

颯真君だって、「俺もやる!」と言ってくれた。

ふたりで一緒に自分磨きをするんだ!

あいさつだけじゃない。

このところ授業を一生懸命に聞き、勉強も頑張った結果は、はっきりと出ていた。

先日のテストでも、成績が『中の上』から、
『上の下』くらいになっていたのだ。

地味子でモブ、ぼっち気味だった私も、明るく前向きとなり、
徐々にクラスと溶け込んでいきつつある。

ただし、今の私の心には大きな(よろこ)びとともに不安もある。

女子に大人気の颯真君と付き合いながら……
クラスの女子たちとも、上手く折り合えるのだろうか?
という不安だ……

でも颯真君が、

「そうなったら、俺がまた凛ちゃんを守る!」

と断言してくれた。
この約束を一生守ると、誓ってくれた。
凄く、嬉しい!

遥も同じ、

「凛とは良く言えば親友、悪く言えば『くされ縁だから』ね! 絶対に離さないよ!」

少し、毒舌で言ってくれた。

海斗君も、

「遥の親友は絶対に見捨てない!」

そう言ったと、遥経由で聞いた。

そんな声が私を、力強く後押ししてくれる。

私はにっこり笑顔で席についた。

相変わらず女子に囲まれ、颯真君は見えない。

でも、もう私は焦らない。

堂々と穏やかに。

昨日……颯真君との話の結果を遥に電話したら、
すぐ折り返しの電話が、彼女から、かかって来た。

そして、

「凛! 鉄は熱いうちに打て! すぐに4人全員集合で作戦会議よ!」

と、遥は言った。

「海斗の都合も、話もついたよ。明日は海斗、部活の午後練習が休みだから、颯真君を入れて、4人で会おう! 隣駅のハンバーガーショップはどう? 最寄りの店じゃないから、多分ウチの学校の生徒は居ないし!」

という、速攻段取りの提案だった。

私はすぐ颯真君へ電話。

遥の行動力に驚いていたけど、快くOKしてくれた。

という事で……
早速私たち4人は放課後会って、
隣駅のハンバーガーショップでお茶をしながら……

今後の『作戦会議』を行う事となったのである。