「遥、もうひとつ、相談があるの」

「相談?」

「颯真君ファンのクラス女子の事。このまま私と颯真君が付き合うと、いろいろ問題になるだろうからって」

私が言うと、遥も納得する。

「あ、そうだよね。今後の人間関係もあるし、確かにそれは、大きな問題かも! で、彩乃ママは、何か言ってた?」

「颯真君が覚悟をもって、取り巻きのクラス女子たちと距離を置く事だって」

遥はお母さんのアドバイスを聞き、少し口ごもる。

「う~ん。確かにそれはそうだよね……」

私は更に話を続ける。

「さすがに『私と付き合うから!』 とストレートには言えないから……『俺には好きな人が居る』って、クラス女子たちに告げて貰うんだって」

「まあ、それは良いと思うけど」

思う……けど?

遥は何か、引っかかっているのだろうか?

私は気になりながらも、更に話を続ける。

「うん、私と付き合っているのに、大勢のクラス女子達と休み時間には、いっつも囲まれるとか、学食には一緒にぞろぞろって行くとか、いつまでもそんな状況はよろしくない。だから、颯真君自身から、『実は俺には好きな人が居る』から、って言って貰えばとアドバイスされたわ」

「成る程ねえ……」

「もしも、その好きな人は誰なの? って取り巻きのクラス女子達から聞かれたら、それは絶対に言えないと、颯真君には徹底的に突っぱねて貰うの。なぜなら、好きな相手の気持ちが分からないって……これから、お互いの事を知って行くって、ね」

「うんうん……そうか」

「だから、悪いけれど、君たちとは普通のクラスメートとして、接したい。颯真君から、クラス女子達へきっぱりと言って貰うのよ。……それで、たいていの女子は諦めるでしょうからって……」

「まあねえ……常識的な人は諦めるでしょうねえ。例外は居るかもしれないけれど」

「うん……それと私と颯真君の出会いのエピソードは、クラスの殆どが知ってるんでしょ? って言われたわ」

「……うん、颯真君が話したから、ほぼ全員、知っているよね」

「私も、お母さんへそう言った。そしてね、今日の相原さんの『事件』は皆が見ているじゃない。目の当たりにしている。だから、勘の鋭い子や空気が読める子は、颯真君が好きなのは、凛だって、すぐに気づくわって」

「確かに、そうかも」

「それに颯真君、クラスのみんなに言ったから。俺と凛の想い出をとやかく言うなって」

「そっか! 納得。彩乃ママのアドバイスは、まあ流れとしては問題ないと思う」

「え? 流れとしては問題ない?」

やっぱり遥は、少し考えるところがあるようだ。

と思ったら、遥は、

「うん、進め方としてはおおむねOK! ねえ、凛、私の意見を言っても構わない?」

と、自分の考えを述べたいと告げて来た。

当然、私は了解する。

基本はこのまま行きたい。
けれど、遥の考えをぜひ聞いておきたい。

「うん! ぜひ! お願いします!」

「分かった! 私、基本的には彩乃ママには賛成するけど、少しだけ時間をかけた方が良いと思う」

「少しだけ? 時間をかけた方が?」

え? 
お母さんのアドバイスには賛成。

だけど、少し時間をかける?

どういう事だろうか?

「うん! 焦りは禁物……だと思う」

「焦りは……禁物」

「だって! もう凛と颯真君はお互いの気持ちを確かめたんでしょ? 互いに、ゆるがない、しっかりした想いだって」

「うん! そうだよ!」

私と颯真君の想いは一緒だった。

確信している!

そんな私に、遥は問う。

「だったら、凛……もしも颯真君の周りに他の女子がたくさん居ても、いろいろと話しかけられても……焦らず、騒がず、堂々としていられるわよね?」

うわ!?

もしも颯真君の周りに他の女子がたくさん居ても、いろいろと話しかけられても……
それって……結構、きつくない?

私は考え込み、無言となってしまった。

「………………」

「こら! 凛! 今からそんな事でどうするの? しっかりしなさい!」

私のチキンハートが遥に読まれ、しかられてしまった。

「遥……」

「凛! 私からの提案。質問せず……ひと通り、聞いてくれる」

「う、わ、分かった」

「クラスメート達は、凛と颯真君の出会いエピソードを知っている。それに関して口を出して欲しくない。凛に何かちょっかいを出すのも許さないと、颯真君は言ってくれたんだよね」

「………………」

「今日の相原さんの一件もあったじゃない。颯真君は凛をかばった! クラスメート女子の記憶に、この事件はしっかりと刻まれた。……だから、こうするの」

「………………」

「話としては、凛への気持ちを改めて、確かめたいと、颯真君がデートに誘ったという事にする」

「………………」

「でも、凛は奥手で颯真君と1対1でデートするのが不安。だから私と海斗を一緒に誘った……4人で会おうという事にする」

「………………」

「そして、何回か、4人でダブルデートをするの!」

「………………」

「デートだけじゃない! 学校でランチも一緒に4人だけで一緒に行く。クラス女子の誘いは、颯真君にきっぱり断って貰う」

「………………」

「ここで、大体の女子は察して、分かると思うよ」

「………………」

「そして、凛と颯真君は、お互いの気持ちを確かめ合い、付き合う事となった! ……という『バックグラウンドストーリー』にする」

「………………」

「ここで彩乃ママの言う通り、まだクラス女子たちが颯真君の周囲に来るのならば、君達とは普通のクラスメートとして接したいという、宣言をして貰うの、颯真君にはね!」

「………………」

「なぜ? ってクラス女子から聞かれたら、俺はやっぱり山脇凛が好きだ。気持ちを確かめたから、付き合う事にするって、きっぱり宣言して貰う」

「………………」

「それでもまだ、クラス女子がくっついて来るようであれば、凛が女子たちへ突撃するの! 不安かもしれないけれど、大丈夫! 私も凛に付き合うからね」

「………………」

「突撃と、いってもね。ケンカをするわけじゃないよ。ただただ普通に振舞うだけ」

「………………」

「しばらくは、皆で一緒に行動する。そうこうしているうちに、くっついている子も、徐々にフェードアウトすると思う」

「………………」

「……以上! どうかな? 基本は彩乃ママのアドバイス通りだと思う」

遥は本当に凄い。
私と颯真君、クラスの皆の事も考えている。

私も頑張らなきゃ!
もっともっと変わらなきゃ!

「あと、凛。これ要注意!」

「え? 要注意って?」

「人と人との兼ね合いだから、どんなに考えてもリスクはある。冷たいと思うし、べたな言い方なんだけど、もしも上手く行かず、トラブっても凛の自己責任だよ」

はっきり言い切る遥。
かえって、信用出来る!

「自己責任? うん! 分かった! 私の初恋なんだもの! 遥やお母さんのせいには絶対しない! 迷惑はかけないよ!」

「よっし、了解! でも安心して! もしもトラブったら、私や海斗が、出来る限りフォローするからね」

「あ、ありがとう!」

「それとね! 私に相談したっていうのはともかく! お母さんに全部言った、恋の相談をしたって、颯真君には言わない方がベストよ! 」

「え? そ、そう?」

「うん! 付き合い始めの彼氏から見て、母べったりの女子って、結構なマイナスイメージになるから! 経験者は語る! バイ、遥! って感じ、うふふふ。さあ! 颯真君に電話、電話! レッツラゴー!」

ああ!
遥!
何から何まで、本当にありがとう!

後は、私が頑張らなきゃ!

「本当に本当にありがとう! 遥!」

私はスマホの向こうの遥へ改めてお礼を言い、

「まっかせて! お安い御用!」

という声に対し、深々と頭を下げたのであった。