「凜! おめでとう!」

と、大きな声で心のこもったお祝いの言葉を告げてくれた遥。

私は感激し、

「ありがとう!」

と、これまた大きな声で返していた。

しかし、これから先の事を考えると、少し気が重くなる。
乗り越えねばならない高いハードルがたくさんあるからだ。

「でも、遥。これからが大変なの」

とつい愚痴ってしまった。

すると遥も、

「うん! 分かるよ」

と、同意してくれた。

ああ、遥……
私の事情を察してくれて、いろいろ相談に乗ってくれそうだ。

本当に、ありがたい!

「それでね、遥……」

と、言いかけた私だったが……

「ストップ!」

とさえぎられてしまった。

「え?」

な、なぜ?

しかし遥は、

「その先は、言わなくてもOK! 全部言わなくとも、分かっているから」

「えええ!? 言わなくても? 分かってるからって!?」

「うふふ、言葉通りよ! 凛と颯真君が上手く行くように、私と海斗が協力すれば良いんでしょ」

「遥! どうして!?」

思わず私は遥の名前を呼び、絶句した。

「当り前じゃない! ツーと言えばカー、私は凛の親友なのよ!」

ああ、スマホの向こうで優しく微笑む遥の笑顔が目に浮かぶ。

「それで、凛、段取りは? 私と海斗は、いつ何をどこでどうすれば良いのかな? 5W1Hを教えてくれる?」

「あ、ありがとう!」

「いいって、いいって! 恋愛の先輩、遥様にまっかせなさ~い!」

「ありがとう! 本当にありがとう!」

「あ、そうだ! 凛の幸せを聞いたから、うっかりして伝えるのを忘れてた!」

「え? 伝えるのを? うっかりして忘れてたって何?」

遥が、私にうっかりして言い忘れた事?

少し緊張しながら、私は遥の言葉を待った。

「凛!」

「は、はい!」

「言い忘れていたのって、例の相原亮(あいはら・りょう)さんの事なんだけど……」

え?
相原さん!?

私を強引に誘った事を、潔く謝罪し、去っていったけれど……
その相原さんが、一体どうしたというのだろう?

私は大いに不安となった。

しかし……心配は杞憂(きゆう)に終わった。

「大丈夫、凛。安心して良いよ」

と、遥がきっぱりと言い切ったのだ。

ということは……
悪い話ではないみたい。

だけど……意味が分からない。

「私が安心?」

「ほら! 私が海斗へさ、言ったじゃない。「海斗は、相原さんと話してくれる? もうあんな事しないよう、ちゃんと言っといて!」ってさ」

「あ、そうだよね……」

「それでさ! 海斗があの後、相原さんとふたりきりで、いろいろと話をしたんだって。そうしたら、どうなったと思う?」

うう、なんとなく予想はつくけれど……遥が()らす。

「ええっと……どうなったのか、教えて! 遥様! お願いします!」

「あはは! 凛! もったいぶってごめん! ばっちり話がついたのよ」

「え? ばっちり話がついた? じゃ、じゃあ!」

「うん! ウチのクラスでは既にオープンにしているし、凛と颯真君には申し訳ないと思ったけど、海斗がね、凛と颯真君のなれそめ、『10年前の出会い』を相原さんへ話したのよ。それでもう凛には、二度とアプローチしないでくれって、頼んだの」

「そ、そうだったの……」

……確かに、颯真君が転入して来た日。
私と颯真君の幼い頃の『出会い』は、クラスメート達に対し、オープンとなった。

颯真君自身の口から語られた。
事前に私の了解を得てから……

話を聞いたクラスメート達は、颯真君に興味を持った、
他のクラスの女子生徒たちにも話しているという。

だから、他クラスの相原さんに、いまさら隠す必要はない……といえる。

「ええ、他のクラスの人も多分知っていると思う。だから颯真君との出会いを話すのは、構わないけれど……」

「サンキュー! それでね! 相原さん! そんな素敵な出会いをして、これから恋に落ちるふたりの間に、第三者の俺は入れないよって、笑いながら話してくれたって!」

「え!? は、遥! ほ、本当に!?」

「そうよ凛! 本当の本当!!」

「あ、ありがとう! 遥!」

「うふふ、どういたしまして! 後で海斗にもケアしておいてね。あいつさ、あんな事になったのは、俺にも原因がある。これからは、なんでも協力する、凛と颯真君の恋を大いに応援するって約束してくれたんだよ!」

ああ!
まずは、相原さんを説得してくれた海斗君に感謝!
そして海斗君に、相原さんの説得を頼んでくれた遥にまた感謝!

相原さん……海斗君の言うように、誠実で素敵な人だった。
私への誘い方はちょっと強引だったけれど……

相原さん……ごめんなさい!

と、私は心の中で、両手を合わせていた。

という事で、相原さんの件は無事解決した。
海斗君に会ったら、お礼を言わないといけないな。

万が一、相原さんが心変わりする可能性もある。
けれど、私にはもう心に決めた相手が居ると、きっぱりお断りすれば良い。

よし!
自ら協力を申し出てくれた遥に、次の段取りを相談しよう!

「ねえ、遥」

「なあに?」

「遥に電話する前に、お母さんと話した。公園で颯真君と話し込んで、だいぶ遅く帰って来たから、理由と一緒に」

「うん、良いんじゃない。彩乃ママに遥の初恋の応援をして貰おうって、勧めたのは私だし」

「そ、それでね、お母さん、私へ、アドバイスしてくれたの」

「凛へ、アドバイス?」

「うん! ひとつはね、遥が察してくれたように、遥と海斗君に協力して貰えって事。詳しい事は後で話すけど、ダブルデートして、既成事実を作れって言われたよ」

「ダブルデート? 既成事実?」

「ええ、私と颯真君、遥と海斗君、4人で何回かデートしろって」

「おお、それで?」

「そうすれば、一見友だち4人で遊んでいるように見えるから、誰かに見られても、そう厳しく追及されないだろうって。私と颯真君が、いろいろ話し、付き合っている既成事実が出来つつ、遥と海斗君が、颯真君とも話して遊んで仲良くなれるからって」

「わお! 成る程ぉ! それ! ナイスアイディア! 大いに納得! 一石二鳥! さっすが彩乃ママ! あったまい~!」

やはりというか、遥に詳しい説明は不要だった。
すぐにお母さんの意図を理解したらしい。

「凛! 了解! ダブルデート! 私も大賛成! 海斗にも頼んでおく。多分、大丈夫だよ!」

「ありがとう! よろしくお願いします。本当に感謝します!」

「あはは、ありがとうだけでいいよ。 よろしくお願いします。本当に感謝します!なんて他人行儀だよぉ!」

いやいや!
そう言われても、遥には言いますって。
私の素直な感謝の気持ちを伝えておきたいから。

でもこれで、遥と海斗君の協力はほぼ得られる。

問題は……もうひとつの方だ。

私は軽く息を吐き、遥に話を始めたのである。